日本の特別地域 特別編集100 これでいいのか福島県
日本の特別地域
震災、10年 福島の軌跡とこれから 不屈の福島人の歩みを現地ルポ
日本にとって福島県は、非常に大切な地域となった。2011年3月11 日に発生した東日本大震災において、宮城県、岩手県とともに最大の地震、津波被害を受け、さらに福島第一原子力発電所の事故にも見舞われた。第二次世界大戦後、発展を続けてきた日本で、災害への本当の対策、原子力発電の危険性という、ほとんどの人が目を背けてきた「弱点」をもっともつらい形で見せつけられてしまったのが、福島県だった。
この未曾有の災害は、日本人の意識自体も変えた。新しい試みとして始まった民主党政権は崩壊し、震災時に威力を発揮したSNSによるコミュニケーションの普及、「自粛」という言葉の予期せぬ定着、「同調圧力」など、その後の10 年の日本社会に大きな影響を与えた。その多くが東日本大震災と原発事故を出発点としている。
しかし、それほどの大事件だったのにもかかわらず、2010年代に起こったその他多くの事件や変化の中で、震災と原発事故で福島県が負った傷は、多くの人の意識の中で薄れていった……。
地域批評シリーズは、震災後から福島県を始め、東北各県において、震災を主題とした作品を刊行している。そして今回、震災後10 年という節目において、ともすれば忘却の彼方へ追いやられようとしている東日本大震災と原発事故を改めて精査し、進んでいるのかどうかすら曖昧な福島県の復旧と復興の実態を調査した。さらに被災地に生きる福島県民やその関係者にもスポットライトを当てた。震災後の福島には、愛する郷土に生きる県民、離れざるを得なくなった人たちの知られざる事績や葛藤がたくさんあるのだ。
本書がどの程度、福島県と東北地方の人々の役に立つかはわからない。だが、被災地で力強く生きている人々、今も苦しむ人々の姿を広く世間に発信していくことは、各地の地域問題を扱ってきた当シリーズの使命であると確信している。そしてそれば震災が今も続いている福島への、本書ならではのエールでもある。