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「転生したら剣でした 13」著者書き下ろしのショート・ストーリーをプレゼントします。

フランとウルシと修行


「じゃあ、行ってくる」

「オフ」


 やる気を漲らせた二人は、台座に刺さったままの俺に出発を告げる。その表情は、これから死地にでも赴くかのようにキリッとしていた。


『お、おう。気をつけてな?』

「ん!」

「オン!」


 フランたちが向かうのは、日課のゴブリンストーキングである。

 スキルを使わずに気配を消して、ゴブリンたちを追跡するという修行だ。

 今のフランたちならゴブリンごときに危険な目にあうこともないし、もっと肩の力を抜いてもいいと思うんだけどな……。多少、ごっこ遊び的な要素はあるだろうが、その真剣さは本当である。


「ウルシ、今日こそ鼻曲りを攻略する」

「オン」


 鼻曲りというのは、ゴブリンの中でも特に察知能力が高い個体であるそうだ。

 フランたちは鼻曲りに何度も発見されており、煮え湯を飲まされている。歩きながらも、真剣に作戦を話し合っていた。

 俺は台座から動けないから、スキルで見守ることしかできんのが歯がゆいぜ。


「最初に、これ」

「オ、オン?」


 フランが草原でしゃがみ込むと、何かを掴み上げた。特殊なものではなく、普通の土っぽい。なにをしたいんだ? 俺だけではなく、ウルシも物問たげな顔をしている。やはり、フランが何をしたいのか分からないのだろう。

 そんな俺たちを他所に、フランは水を生み出して土に加え始めた。どうやら泥を作っているらしい。しばしグチャグチャとやっていたかと思うと、満足げに頷く。

 フラン的には納得いく泥ができたらしい。


「ここの土なら、いける」

「オン?」

「こうして、こう!」

「オ、オフ」


 フランが地面に水を撒いてコネコネする姿は、子供が遊んでいるようにしか見えん。

 だが、フランの顔は真面目だ。数分ほど泥をこねて量産していたフランは、ようやくいい顔で立ち上がった。


「ふー、これで準備完了」


 そんなことを言いながら、中型犬サイズのウルシを持ち上げる。


「オ、オン?」

「だいじょぶ、すぐ終わる」

「キャイーン!」


 うわー。フランがウルシを泥の中に投げ入れたよ。しかも、そのまま押さえつけて、全身に泥を塗りたくっている。


「ウルシ。暴れちゃダメ」

「クゥン」

「こっちも」

「キャイン!」

「ここも」

「ヒャイーン!」


 フランによって隅から隅まで泥を塗りこまれたウルシの姿は、まるで泥が四足歩行で動きだしたかのようであった。ビーストタイプのマッドゴーレム的な? 美しい毛並みは見る影もない。

 フランはそこにさらに草をばらばらと振らせて、付着させていった。


「クゥン……」

「ん。かんぺき」


 項垂れるウルシを観て、フランが刻々と頷く。

 そして、自分も泥のプールに飛び込んだ。全身つかるほどの広さはないので、手で泥を自分の顔などに塗りたくりながら、ウルシと同じようなマッドマン状態へと変身していく。仕上げに、全身に草を付着させたら完成だ。


「これで偽装は十分。ウルシ、いく!」


 泥と草でで全身覆うことで、天然のギリースーツを作り上げたのだ。

 俺が以前ポロッと話した、泥を使った偽装の話を覚えていたらしい。


「オフ……」


 僅か一〇分の間に、あれほどあったウルシのやる気は最低まで落ち込んでいた。

 だが、さすがは中堅ウルシ。黄昏た目をしつつも、フランに付いて歩き出す。背中の丸まり具合を見るだけでも、ウルシのテンションの低さが分かるというものだ。

 泥の怪物が二体、ゆっくりと平原を進んでいく。

 済まんウルシ。フランがこの方法を思いついたのは、どう考えても俺が不用意にギリースーツの話をしたせいだ。


「! いた!」

「オフ」

「……なんでばれる?」

「オン……」


 そりゃあ、森の中ならいざ知らず、この辺は草も短くて、動く泥は目立つからね……。

 鼻曲りどころか、普通のゴブリンにも気づかれていた。


「……とりあえず、泥落とす」

「オフ……」


 頑張れフラン。時間はある。色々試せばいいさ。そして、ウルシは大人しく巻き込まれておけ。