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「転生したら剣でした 18」著者書き下ろしのショート・ストーリーをプレゼントします。
船に乗ってゴルディシア大陸を目指す俺たち。
「オン!」
「ウルシ、がんばった。偉い」
「オンオンオン!」
フランに頭をグリグリと撫でられて、ウルシは尻尾ブンブンだ。
大陸へ辿りつくまでの護衛も任されているんだが――ぶっちゃけウルシだけで十分なんだよね。
フランは甲板に立ってるだけで、近づいてくるモンスターはウルシが瞬殺していた。ついさっきも、静かな海原にチュドーンっていう爆発音が響いていたのである。広い海原を自由に走り回れて、楽しいらしい。指示するまでもなく、自ら進んでモンスターを排除していた。
「やることなにもない」
『うーむ、このままだとフランはバカンスみたいなものだなぁ』
「バカンス?」
『あー、なんというか、休暇っていうのかな? ギンギラギンな日差しを浴びながら、ちょっとハッチャケてやらかしちゃう夏の日的な?』
「なるほど」
え? 今ので分かったの? 俺でさえちょっとわけわからないこと言っちゃったなーって思ってるのに!
フランは俺の言葉にコクリと頷くと、次元収納から籐製の椅子を取り出した。そして、そこに腰かけると、風呂上り用に常備している冷やしミルクを飲み始める。
どうやら、フランなりに考えたバカンスを実行しているらしい。護衛依頼中に休憩しながらミルク。確かにハッチャケているか?
周囲にいる兵士は微妙な顔だが、文句は言ってこない。ウルシがいるのが分かっているからだろう。
日差しの降り注ぐ甲板で、くつろぐフラン。
間違ってはいないかもしれない。だが、甘いな!
『フラン、その姿は確かにバカンスっぽい! だが、まだ完璧ではない!』
「どこがだめ?」
『うむ。まずはこれに着替えるのだ!』
「みずぎ?」
『そうだ! バカンスと言えば水着! 例えアマルフィにいたとしてもスーツではバカンスではなく! そこが大洗でも水着ならバカンスなのだぁぁぁ!』
「ふーん?」
おっと、熱くなり過ぎちまったぜ。フランが闇魔術で姿を隠しながら着替えをしている間、俺はさらなるバカンスグッズを取り出して場を整える。
まずは椅子の代わりにデッキチェア。隣にはビーチパラソルを差し、飲むのはトロピカルジュースだ!
最後に、頭部の猫耳に引っかけるタイプの特殊なサングラスを用意すれば、完璧である。
『どうだ?』
「これでいい?」
『おう! 可愛いぞ! じゃあ、こちらへどうぞお嬢様』
「ん」
『いいね! デッキチェアに寝そべるフラン! 完璧にバカンスにしか見えないよ!』
「ふふん」
周囲の兵士の視線とか、もう全然気にならないね!
水着に着替えたフランは、何を混ぜたらそうなるんだーっていう緑色のジュースをチューチュー飲んでいる。サングラスも意外に似合っているのだ。まあ、フランは何でも似合うけどね!
「む、魔獣きた」
『大丈夫だ。ウルシ!』
「オンオン!」
俺の想いが伝わったんだろう。フランのバカンス気分を守るため、キリッとした表情のウルシが出撃していった。ほどなくして大きな爆発音が聞こえてくる。
ただ、ちょっと船に近いか? というか、段々爆発が近づいてきてね? かなり大きな群れらしく、ウルシの処理が追い付いていないのだろう。遂には船のすぐそばで水柱が立ち、甲板に水がパラパラと振ってきた。船が結構揺れているのだ。
「これがバカンス?」
『え? いや、ちょっと違うかな?』
こら! ウルシ! フランがバカンスを、美味しいジュースを飲みながら水着で魔獣のスリルを味わう変なイベントだって勘違いしちゃうだろうが! もっと静かに倒しなさい!
「師匠」
『なんだ?』
「船グラグラして楽しい」
フランが楽しんでいるなら俺も嬉しいけど、そうじゃないんだ!
「オンオン!」
「ウルシおかえり」
「オン!」
戻ってきたウルシをフランが撫でてやる。
「バカンス、たのしい。ウルシもバカンス楽しんでる?」
「オン!」
どっちもこの場を楽しんでいるようだけど、これは全くバカンスじゃないの! というか、ウルシのやってることは全くバカンス関係ないから! 魔獣のことは忘れてほしいのに!
でも、俺も全然バカンスのこと説明できないから、訂正できなーい!