アンケートにご協力いただきまして誠にありがとうございます。
「転生したら剣でした17」著者書き下ろしのショート・ストーリーをプレゼントします。
「デカ? デッカイ人だけがなれる職業?」
『いや、そう言うわけじゃない。本当は刑事っていうんだが……』
「じゃあ、なんでデカ?」
『な、なんでなんだろうなぁ?』
考えたことなかった。
『む、昔の刑事がデカい人ばかりだったから、とか?』
「なるほど」
「オン!」
いや、分からんけどね? というか絶対に違うけどね?
事の起こりは数分前。町の市場で、騎士たちが何やら聞き込みのようなことをしていたのだ。どうやら、犯罪者の目撃情報を聞いて回っているらしい。
それを見てつい「デカみたいだなぁ」って言っちゃったんだよね。
そしたら、フランがデカという言葉に興味を示したという流れだ。
「デカ、何する人? 騎士とは違う?」
『デカっていうのは……そうだなー』
大雑把に、聞き込みなどを行って犯罪者を捜索する職業であると説明する。戦闘もするけど、それがメインじゃなくて、犯罪者の逮捕がメインの仕事だ。
「ほー、なるほど」
『聞き込み以外にも、尾行したりもするな。あとは、警察犬に匂いを追わせたり?』
そんな話をしていると、フランが不意に足を止めた。
「む。あいつ……」
『フラン?』
フランが見ているのは、市場を歩く青猫族の男性だ。冒険者とかではなく、一般人かな? 少なくとも戦闘力があるようには見えない。
だが、フランはそんな男性を睨みつけると、密かに近寄っていくではないか。
『あの男がどうかしたか?』
(あの男、怪しい)
『え? いや、どこが?』
(デカの勘)
『なるほど』
刑事ごっこがやりたくなったらしい。
ちょっと気持ちは分かる。俺も小さい頃、似たようなことをしたことがあるからね。
「ウルシ、ようぎしゃを尾行する」
「オン」
まあ、相手は戦闘能力もないし、フランとウルシが見つかることもあるまい。しばらく尾行されてもらおう。
そんなこんなで、フランたちは青猫族の男性を尾行し始めた。
男性は見張られていることなど露知らず、普通に市場の中を歩いていくな。それフランたちは真剣な目で見ている。
時には人の陰に入り、時には露店の後ろに回り、意外とちゃんと尾行を続ける二人。
「おばちゃんに声かけた。あやしい」
「オン」
「何も買わない。あやしい」
「オン」
「あそこの角曲がった。あやしい」
「オン」
いや、別にあやしくない。
俺が見る限り、男性は何か探し物をしながら市場を歩いているだけだ。目的の商品があるが、売っている店がなかなかないんだろう。
フラン、絶対に青猫族だからって理由だけで怪しんでるだろ。
それでも二人は楽しそうだし、もうちょっと付き合ってくれ。名も知らぬ青猫族よ。
相変わらずフランは、彼が何をしてもあやしいと言い続けている。いや、今のは串焼きを買っただけだから! 小銭を拾っただけで怪しいって……。見る目がなさ過ぎて、驚きだよ! 全然怪しくないから!
フランに刑事をやらせたらダメだな。誤認逮捕の嵐だ。
しかも、取り調べも容赦しないだろうし。威圧的な取り調べどころか、拷問だからな。
冤罪製造装置になりかねん。
そうこうしている内に、こちらに近づいてくる気配があった。
男が気づいたのではなく、騎士たちだ。小走りにかけてきて、フランの横を通り過ぎていった。
そして、青猫族の男性に声をかけたではないか。
「ん。やっぱり」
「オン」
『え? マジ?』
男は騎士団に連れていかれてしまった。どうやら、詐欺の常習犯だったらしい。市場でカモに声をかけて、路地裏で絵を買わせるという、古典的な手口だったようだ。
『あれー? フラン、何で分かったんだ?』
「デカの勘」
「オン」
ド、ドヤ顔! ウルシはハードボイルドぶってキリッとした顔すんな! でも、何も言えん……。
「誰が見てもあやしかった」
「オン」
見る目がないのは俺でした! 今後、フランたちの勘は信じよう……。