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「転生したら剣でした15」著者書き下ろしのショート・ストーリーをプレゼントします。
フランが魔術学院での教官役を引き受けた数日後。今日は町の探検に繰り出していた。
「あっちいく!」
「オン!」
目的地があるわけでもない、気ままな町歩きだ。
「美味しそうな匂い」
「オン」
「あっちからお花の匂い」
「オンオン!」
「なんか、カッコ良さそうな匂い!」
「オ、オン?」
匂いと好奇心に誘われるがまま歩き続けた結果、フランは完全に迷っていた。
元々、巨大な蜘蛛巣のような、複雑な作りのレディブルーである。何も考えずに探検していれば、自分がどこにいるのか分からなくなってしまうのも当然であった。
『ここって、さっきも通らなかったか?』
「? ほんと?」
「オン」
「じゃあ、こっち!」
「オンオン!」
『また、狭い道を……』
猫の習性なのか、フランは狭い道を通りたがるんだよね。小型犬サイズのウルシは嬉しそうにその後ろを着いていく。そうして探検を続けると、少し広めの通りに出た。
「屋台たくさん!」
「オン!」
『ここの通りは初めて来たな』
町のやや外れであるらしく、観光客よりは地元民向けの屋台が集まっているようだ。
テーブルや椅子が、通りにはみ出るように並べられている。結構雑多な感じなんだが、西洋風の街並みのせいでオシャレに見えるね。フランとウルシはまるで引き寄せられるかのように、フラフラと屋台に近づいていく。いや、実際、匂いに引き寄せられているんだろう。
「らっしゃい!」
「なに売ってる?」
「スープだよ! 一杯どうだい?」
「ん。二つ頂戴」
「あいよ!」
屋台で販売しているのは、キノコがたっぷりと入った琥珀色のスープだった。味付けは何だろうな? 塩だけじゃなさそうだが。
「いただきます」
「オン!」
フランたちはいそいそとテーブルに着くと、軽く手を合わせてスープに口を付ける。ああ。ウルシの分はちゃんと深皿に移し替えているのだ。
「む!」
『どうだ? 美味しいか?』
「ん! ピリピリしてて美味しい」
『ピリピリ?』
胡椒でも入っているのかと思ったが、詳しく鑑定してみると山椒であった。食べ慣れないスパイスであるため、フランも驚いたんだろう。ただ、がっついていることから、山椒も気に入ったらしい。元々辛いもの好きなウルシも、尻尾をバッサバサ振って大喜びだ。その後、通りを歩きながら買い食いを続けるんだが、どの料理にも山椒が使われているらしい。しかも、どれもかなり美味しいようだ。
「もぐもぐ!」
「オムオム!」
既に五軒目なのに、驚くほどがっついているのだ。
「もっと?」
「オン!」
ウルシはもっと刺激が欲しいらしく、フランに頼んで卓上に置かれた山椒をかけてもらっている。
いやいや、かけすぎだから! こんもりしちゃってるぞ! お店の人の眼も厳しいし!
「ガフガフ! オンオン!」
ウルシ的には、かけ過ぎくらいがちょうどいいらしい。フランが粉っぽ過ぎて咽ている横で、ひたすら山椒大盛りステーキを食べ続けている。もう料理を食べているか、山椒を食べているか分からんな。卓上の山椒を食べ尽くしてしまったので、ちょっと多めに代金を置いてきた。
「次はあそこ!」
『ま、まだ食うの?』
どの屋台でも山椒メインの味付けっぽいのに、飽きないの? まあ、飽きないんだろうな。ウルシだけじゃなくて、フランもずっと同じペースで食い続けてるもん。すでに適量を見極めたらしく、もう咽たりもしていない。
(ピリピリが違う)
『違う?』
(ん。ピリピリ度も、匂いもちょっと違ってる)
どうやら、山椒の種類が違っているらしい。気になったので屋台の人に聞いてもらうと、この辺では何種類もの山椒が自生しているそうだ。そのため、山椒が安く手に入るという。
教えてもらった雑貨屋に行くと、確かに一〇種類以上の山椒が置かれている。中には、見たこともない巨大なものや、真っ青なやつなんかもあった。こっちの世界の動植物って、神様が地球から持ち込んだやつらしいけど、こっちの世界オリジナルの種類も結構あるんだろうな。紫のやつとか絶対毒がありそうな見た目だが、魔力が豊富で非常に美味しいらしい。
料理の幅が広がるし、たくさん買っておこう。
「オンオンオン!」
「ウルシが、買った山椒で料理してほしいって。ゲキカラで」
「オン!」
『お前、本当に山椒が気に入ったんだな……。そうだな、麻婆豆腐なんかいいかもな! バルボラで手に入れたスパイスと合わせたら、メッチャ美味いのが作れそうだ!』
「オ、オンオン!」
「早く帰ろうって」
『いやいや、まだ探検の途中だろ? いいのか?』
「ん。私もまーぼーどーふ食べたい」
ああ、フランも結構山椒を気に入ったのね。まあ、フランには甘口のを作ってやるか。
『よし! それじゃあ、宿に戻ろう!』
「ん!」
「オン!」
まあ、迷子中だから、すぐには帰れんと思うけどね。いや、この二人だったら食欲パワーで直感が強化されて、あっという間に帰り道を見つけてしまいそうだけど。
「ウルシ! 頑張って宿に帰る。まーぼーどうーふのため!」
「オン!」
フランたちはまるで戦場に向かう兵士のように、真剣な顔で歩き出すのだった。がんばれー。