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「転生したら剣でした」著者書き下ろしのショート・ストーリーをプレゼントします。
「す、凄い……。時空魔術で全部仕舞えるなんて……」
「ん。他に持って行く物はない?」
「だ、大丈夫よ。でも、まさか家財を全部持って行けるなんて思わなかったわ。ありがとう」
「礼は、夜逃げが成功したら」
「そ、そうね」
夜逃げ屋。
その名の通り、夜逃げをする人を手助けし、無事に逃がすことを生業とする裏の職業。
夜逃げ屋のフランと言えば、その方面ではちょっと名の知れた存在である。
フランが影で有名になった理由の一つが、弱者からの依頼しか受けない点だろう。妻の病気を治すための薬代を求め、高利貸しに騙された貧民の男性。貴族の妾になるように迫られ、脅されている少女。フランが逃がすのはそんな人々だけである。
もう一つフランの名声を高めているのが、仕事の手際の良さであった。いや、次元収納があるんだから当然なんだけどね。他の夜逃げ屋と違って、荷車や馬車が必要ないのだ。それ故、夜中に逃げる必要さえなかった。昼間、ふらっと出かけた風を装い、そのまま逃げだすことが可能なのである。
「まさか夜逃げなのに、昼に堂々と逃げることになるなんてね」
「でも、今回は相手を誤魔化しきれてない」
「どういうこと?」
「後をつけているやつがいる」
「ええ? だ、大丈夫なの?」
「平気。任せておいて。後で対処するから」
『今回は確か、盗賊と結託している悪徳商人から逃げるっていう依頼だったな?』
三〇歳も年上のアブラギッシュなオヤジから愛人になれと迫られている、十代半ばの少女が依頼人である。相手はこの町で力を持っており、断れば何をされるか分からないということだった。
『十中八九、その商人の手下だろう。背後関係を吐かせてみれば分かるさ』
(ん)
『あとは馬鹿どもを潰せばいい』
もう一つ、フランの名が売れた理由がある。夜逃げ後、依頼人が逃げるはめになった原因が、ことごとく排除されるという点だ。盗賊だろうが、貴族だろうが、商人だろうが、絶対に破滅している。
「じゃあ、行こう」
「……お願いするわ」
原因が排除されたんなら逃げる必要がないのでは? というのは甘い考えだ。どれだけクズの悪党であっても、親類縁者や部下がおり、報復される可能性は残り続ける。結局、原因を排除して追っ手の可能性を潰しつつ、他所の町に逃げるというのが最も安全なのだ。
『とりあえず町の外までついて来たら捕まえるか。あとはいつも通りだ』
「ん! 腕がなる」
夜逃げ屋フラン。アフラ―サービスも万全な少女。そんな風にも言われている。