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「転生したら剣でした」著者書き下ろしのショート・ストーリーをプレゼントします。
「さあ、今月もやって参りました! アレッサ冒険者ギルド名物、大食い大会! 司会は私、受付嬢のネルと!」
「ギルドマスターのクリムトです」
「いつも一緒に司会をしていたリリー先輩がご結婚されてギルドを辞めてしまわれたので、今月の相棒はギルマスにお願いしております。尊敬するギルドマスターとご一緒できて、涙ちょちょ切れです!」
「リリー君ほど上手くできるかは分かりませんが、頑張ります」
「リリー先輩、私達には誰とも付き合ってないとか言っておいて、影でコッソリ男と付き合ってたんですよ? どう思います? ひどくないですか?」
「君たちにばれたら、冒険者にあっと言う間に広まるからじゃないですか?」
「裏切り者は不幸になればいいのに。もしくは離婚しろ! ギルドマスターもそう思いますよね?」
「ノーコメントで」
「では我々の小粋なトークで場も温まった事ですし、出場者の紹介をしていきましょう」
「小粋? 小粋の定義とは……」
「一人目は巨漢の斧使いドンガ! オークさえ倒す戦斧をスプーンに持ち替えて、料理も対戦者も薙ぎ倒す~!」
「優勝はいただくぜぇ! がはははは!」
「体が大きいと言う事はそれだけ胃も大きいと言う事ですからね。優勝候補と言っていいでしょう」
「はい。もっともらしいけど実は誰でも分かる、内容の薄い解説ありがとうございます!」
「君、私のこと尊敬してないでしょう?」
「そんなことありません! あー、ギルマスの隣で緊張しちゃうわー。緊張し過ぎて全然トークが出てきません」
「それでですか?」
「はいはい、次の参加者の紹介いきますよ。なんと過去にはこの大食い大会での優勝経験あり。細いが高い! 超高身長の細マッチョ! これでイケメンだったら女が放っておかなかったのに! ハーフエルフのベック~!」
「それ、言外に顔は良くないと言ってますよね? ほら、ベック君が泣いてますよ?」
「非イケメンの涙ほど無駄なものはありませんね~。エルフの血の無駄遣いここに極まれり!」
「彼氏ができない理由って、君にあると思いますけど」
「何を言っているのか理解不能なギルマスは放っておいて、お次の紹介に行きますよー」
「まあ、認めたくないのならいいですけど」
「鍛えた冒険者は数知れず! 頼れる我らの鬼人教官! ドナドロンド~! 大会最多優勝を誇る、爆食大王だ~!」
「今日の俺は絶好調だ! 今ならテーブルまで食える気がするぜ!」
「実際、彼の食欲は凄まじいですからね。一度奢って酷い目に会いましたよ」
「お昼を一緒に食べに行くと、逆に食欲無くすんですよねー。だから大人気!」
「な……! 受付の女子たちが妙に俺と食事に行きたがるのはダイエットのため……?」
「さて、次が最後の参加者です! その小さな体でどこまで食らいつけるのか! 今大会の紅一点、野獣の中に混じった一輪の花! 黒猫族のフラン! 美少女! そしてキュート!」
「ん、がんばる」
「きゃー! フランちゃん頑張ってー!」
「司会が一人に肩入れしていいんですかね?」
「良いんです! 誰だって汗臭いおっさんどもよりも、可愛い女の子が好きなんです! むしろフランちゃんが食べている様子をみんなで見守ればいいんじゃないですか? さて、今日の料理は銀匙亭さん提供の鹿肉シチューです! 安くておいしい銀匙亭をどうぞよろしく! そして、そうこうしている内に料理が行きわたったようですね? 準備は良いですか? いいですね? では――――始め!」
「うおおおおおお!」「ぬおおおおおお!」「ぐおおおおおお!」
「四者一斉に食べ始めました! 凄い勢いだ! 全く味合わずに、シチューを胃に流し込んでいきます!」
「美味しい料理が勿体ないですね。もっと味わって食べればいいのに」
「大会を全否定するお言葉ありがとうございます! さて、やはりドナドロンドさんが速いか! すでに一皿分の差がついている! いや、これは! フランちゃんが食らいついている! むしろその速さは何だ~!」
「ドナドロンドくんに負けていません。むしろ勝っているか?」
「これは凄い凄い! 皿が置かれる端からシチューが消えて行く! その小さい体のどこにこれ程のシチューが入っていくのでしょうか! すでにドンガとベックはグロッキーか? 手を止めてしまっている! 優勝の行方は残った二人にゆだねられた―! どちらも一歩も引きません! どちらが勝つのでしょうか~!」
「嬢ちゃん、やるな! だが、自分より小さい少女に負けることは許されねぇ! 勝つのは俺だ!」
「勝つのは私。まだ余裕」
「二人が視線を交わし、不敵に笑いあう! 命がけの激戦の中で友情が芽生えたのでしょうか! 美しい光景です!」
「……この大会、どうして恒例にしてしまったんですかね?」
「騒げれば何でもいい! それが冒険者というものです!」
「ぶっちゃけましたね。まあ、騒ぎたいのは冒険者だけではなく、ギルド職員もでしょうけど」
「全く差が付かないまま終盤戦だ~! ああ! 残り三〇秒でフランちゃんがラストスパート!」
「まさに皿まで食べる勢いとはこのことですね。見ているだけで満腹になってきました」
「五、四、三、二、一――はい! ここで終了です! しか~し、二人の完食枚数は一緒! と言う事は、残ったシチューの量で勝者が決まりますが――。ギルドマスターどうですか?」
「なぜ私が確認しなくてはいけないんですか……」
「はい、ブツブツ言ってないでちゃっちゃと確認する! たいして仕事してないんですから」
「分かりましたよ。ふむ、明らかにフランさんのシチューの方が少ないですね」
「くっそぉ! 負けたぜ!」
「ドナドロンドさんの敗北宣言出ました~! 今月の優勝者は超大穴、黒猫族のフランちゃんに決定です! これは歴代最年少記録! また、歴代で最も小さい優勝者でしょう! いやー、賭けも荒れてそうですこれは!」
「末恐ろしい娘です。しかしドナドくんも――」
「はいはい、何さサラッとそれっぽいこと語ろうとしてるんですか。誰も求めてませんよ?」
「……君、やっぱり私の事を尊敬してないでしょう?」
「うるさいギルマスは無視して勝利者インタビューをしてみましょう! フランちゃん、やったね!」
「ん」
「力強いお言葉を頂きました!」
「ねえ。私、必要ありました?」
「ぶっちゃけ炒りませんでしたね~。では、今月の大食い大会はこれにて終了! 次回をまたお楽しみに~」
「……次回があるかは分かりませんが」
「絶対やりまーす! ギルマスが横槍入れてきたらストライキでーす!」
「私、ギルドマスターですよ? 偉いんですよ?」
「今回の大会は、安くておいしい銀匙亭と、アレッサ食堂組合の提供でお送りしました! では、さようなら~」
「さようなら……」