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「転生したら剣でした」著者書き下ろしのショート・ストーリーをプレゼントします。
フランと出会ってから二回目の夜。俺たちは目の前の光景に感動していた。
『蛍か……』
無数のホタルが原っぱを飛び交い、まるで星空が地面に降りて来たかのような美しい光景だ。地球でもここまでの景色は見たことが無いな。しばし見惚れてしまう。だが、静寂を破ったのはフランの腹か聞こえたグーッという音だった。
「……お腹空いた」
『台無しだな!』
「ん?」
『いや、飯を作ろうか』
「ん。私は解体」
確かに、食事が出来るまで結構かかりそうだしな。解体をして時間を潰してもらおう。
『じゃあ、この辺の解体を頼む』
「ん。まかせて」
よし、フランが解体を終える前に作っちゃわないとね。今日の晩飯のメインは決めてある。うどんだ。
その為に昼の内に生地を捏ね、寝かしておいたのだ。後はこれを切って茹でれば主食のうどんの完成である。
出汁は昼に作ったロック・バイソンスープと、昨日の夕食に作ったクラッシュ・ボアのスープがある。これをブレンドするつもりだ。魔獣食材は相当美味しいらしく、これだけでもかなり良いつけ汁が出来るだろう。
さて、おかずは何を作ろうか。
俺は奴隷商人の馬車から持ち出したフライパンと鍋、まな板、ボウルなどの調理器具と、塩、コショウ、味噌モドキなどの調味料を並べながら思案する。
因みに、味噌モドキだけは奴隷商人の持ち物ではなく、道中で手に入れた物でる。ウツボカズラに似た植物から採取できる天然の調味料だった。食中直物とは言っても人を襲う様な魔物植物ではなく、こっちの世界の普通の植物である。これの消化液が減塩味噌と減塩醤油を混ぜた様な味がするのだ。発酵臭で獲物を集めるらしい。これを数度布で濾して、火にかけて沸騰させた後、浄化魔術をかければ調味料として使えるのだ。一度煮立たせれば酸が飛んで問題なくなるらしい。
使える食材は馬車から持ち出した小麦粉と、次元収納に入っている魔獣肉や道中採取した野草類か。ステーキや焼肉ならすぐ作れるが、うどんに合うとは言い難い。うどん自体にも肉を入れて肉うどんにする予定だしな。
それに、うどんに合うなら和食だろう。いや、味噌モドキもあるし不可能ではないか?
『味噌か……よし、決めた』
モツ煮込みと行こう。ロック・バイソンの解体は終わっているので、内臓は大量にあるのだ。
となればまずはモツの下処理だな。
小腸、胃などを少量ずつ切り出し、水で綺麗に洗う。そして浄化魔術で汚れを落とし、また水で洗う。これを何度か繰り返して完璧に汚れを落せば下処理は完了だ。
作るのはモツ煮だが、鍋はスープで使ってしまっている。今日はフライパンで作るか。
まずはクラッシュ・ボアの脂をフライパンで溶かす。そこにモツを投入して軽く炒め、焼き目が付いたら水を加えて味噌を溶かし入れた。最初に炒めることで時間短縮できると共に、香ばしさもプラスされるのだ。味噌スープに浮くボア脂が美味そうだ。豚汁だってこの脂が甘くて美味いんだしな。
こっちはこれでいい。弱火で煮込んでおこう。
よし、お次はいよいようどんだ。俺は寝かしたことでモチモチに膨らんだ生地を取り出す。念動で押してみると良い弾力だ。これを伸ばして切ればうどんになる訳だが……。
『どうやって伸ばそうかな』
テーブルなんかないし。土魔術で台を作ろうかとも思ったが、浄化魔術で綺麗にしてもその上でうどんを伸ばすのは嫌だ。布はあっても清潔とは言い難い。清潔そうな布はハンカチ程度の大きさしかない。
念動でどうにかならないか?
俺はうどんの生地を念動で支えつつ、伸ばそうと試みた。
『くぬっ! ぬりゃ! ――無理か』
これが案外難しい。うどんを均等に伸ばすのもそうだが、下で支えるのが中々上手く行かないのだ。生地の面積が広くなってくると端っこの方がデローンと垂れたりして、そっちに集中すると力加減を間違えて生地が千切れてしまう。
ならば、ピザ方式ではどうだろう。イタリア人シェフがやっている様に回して伸ばすのだ。
持ち上げた生地の中心部を念動で支えつつ、クルクルと回してみる。
『おー! スゲー! 俺ってばスゲー!』
やってみるもんだな。あっさりできてしまった。料理スキルの恩恵が凄まじすぎる。この生地を慎重に折りたたんで、等間隔に切れば立派な麺だ。スープは良い具合に煮詰まっているし、麺を入れて五分茹でればうどんの完成である。
『フラン、できたぞー』
「良い匂い」
よそって渡したうどんと味噌煮込みの匂いを嗅いで、フランは目を輝かせた。
『うどんは啜って食べるのが美味いんだ』
「ん。わかった」
フランはうどんを一本摘まむと、チュルチュルと啜った。そして、モムモムと咀嚼している。どうやら悪くなかったらしい。その後はズゾゾゾゾーっと音を立てて豪快にうどんを啜っている。モツ煮込みも気に入ったようで、うどんの合間にこちらもガツガツとかき込んでいた。しばし無言で箸を動かし続けるフラン。奴隷として捕まっていた間は碌な物を食べていなかったんだろう。フランはどんな物でも残さず食べてくれるな。
「ふ~」
『美味かったか?』
「ん。さいこう」
フランはグッと親指を立ててコクコクと頷く。その顔には、この笑顔を守る為だったら何でもしてやりたいと思えるような、最高の笑顔が浮かんでいた。
『お替わりいるか?』
「ん!」
食事の後、俺はフランと共に星空を見上げていた。地球からこの世界に転生してもう一ヶ月以上が経っている。もう星空なんて見飽きていたんだが、奴隷として過酷な生活を強いられてきたフランには、もう何年も星空を見上げる余裕が無かったらしい。久々に見た星空に、目を潤ませて感動していた。
そんなフランに釣られて俺も空を見上げてみたんだが、見慣れた夜空が妙に綺麗に映る。二人で一緒に見る星空は、思っていた以上に美しかった。これからも、きっと色々な物を二人で見ることが出来るだろう。
『なあ、フラン』
「ん?」
『これからもよろしくな?』
「ん!」