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「乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 5」著者書き下ろしのショート・ストーリーをプレゼントします。

マリエルート その3


 学生生活の自由を手に入れたと同時に、婚約という不自由を手にした。


 お久しぶりです【リオン・フォウ・バルトファルト】です。

 無事に進級して二年生になったのですが、少々問題が起きています。


「兄を売った気分はどうだ?」

「売ったなんて人聞きが悪い。俺は兄貴のためを思って頑張ったのに」

「お前はいつも白々しいんだよ! お前に俺の苦労が分かるのか!」


 学園を無事? に卒業した次兄のニックスが、学生寮に乗り込んできて惚気を聞かせてくるんです。

 新しく誕生したバルトファルト伯爵家――かつて、オフリー伯爵が治めていた浮島が領地となる領主貴族だ。

 前に統治していたオフリー伯爵は、空賊たちと手を結んだ事実が明るみとなりお取り潰しになった。

 ま、俺が潰したんだけどね。いい気味だ。

 さて、空白となる領地が出来たわけだが、そのまま放置も出来ない。

 伯爵クラスの領地を急に管理しろと言われても困る。誰だって困る。

 王国だって困るし、そもそもオフリー家の財産は王国が回収している。

 残ったのは領地だけで、見ると微妙な浮島だ。

 そこで、王国は新しい領主をそこに配置することにした。

 今回の功労者であるのは俺だが、俺はまだ学生の身。

 そこで白羽の矢が立ったのが、俺の兄であるニックスだ。

 簡単にまとめているが、この話がまとまるまでに色々と大人同士の話し合いがあったのは割愛する。

 だって長い話になるしつまらない。

 王国は伯爵家の領地も欲しがってはいたが、それよりも大陸本土にあるマリエの実家であるラーファン子爵家の領地を押さえたかったようだ。

 マリエの実家もお取り潰しになったのだが、ラーファン子爵家の領地は本土にある。

 浮島とは価値が違う。

 王国は浮島よりも、本土にある領地を直轄地にすることを選んだのだ。

 結果、ニックスは伯爵家の当主になった。


「俺は――俺は! 学園でまともに領地経営を学んでないんだぞ! 同格の貴族の子弟に知り合いもいない! 新しい家を興すってだけでも大変なのに、伯爵の俺が素人なんてどうにもならないだろうが!」

「そのためのドロテアさんだろ? あ、違った。ドロテアお義姉さんだ」

「そのドロテアも俺の手に余るんだよ!」


 そんなニックスを支えるために名乗りを上げたのが、ローズブレイド伯爵家だ。

 ホルファート王国では、名門中の名門である。

 そこの長女であるドロテアお義姉さんは、ちょっとだけ癖は強いが、個性的な美人さんだ。

 ニックスが頭を抱えている。


「縛りたいとか、縛られたいとか――俺にはそんな趣味はないんだよ! 親父やお袋みたいに、緩い感じの関係がいいんだ!」

「美人だからいいじゃん。巨乳だし」

「お前みたいに、胸の大小で結婚相手を選んでないんだよ!」


 ニックスの言葉に俺は我慢できなかった。

 俺が胸の大きさで結婚相手を選んでいるだって?

 いくら兄でもその間違いは許せない。


「訂正しろよ! マリエに胸はないんだぞ! そのマリエを選んだ俺が、胸の大小にこだわっているみたいに言うな! 小さいとか、そういう問題じゃないんだ! ないんだよ!」


 兄弟で言い争っていると、部屋のドアが開く。

 そこには――嬉しそうなドロテアお義姉さんと――能面のような顔をしたマリエの姿があった。

 ドロテアお義姉さんが、ニックスに笑顔で手を振っている。


「見つけたわよ、ハニー。今日は三年生をスカウトするために学園に来たのよ。義弟と戯れるなんていけないわ」


 ニックスをまさかの「ハニー」呼びだ。

 吹き出しそうになったのを我慢していると、ニックスのきつい視線が俺に突き刺さる。

 ドロテアお義姉さんが部屋に入ってくると、そのまま俺に微笑みかけてくる。


「リオン君、ハニーをいじめたら駄目よ」

「いじめてないです。惚気話を聞かされたので、からかっていただけです」


 真剣な顔でそう言うと、俺の思いが通じたようだ。

 ドロテアお義姉さんが、ニックスの背中を叩く。


「もう、ハニーったら! リオン君に自慢したかったのね」


 俺を見るニックスの顔は凄かった。

 怒り、憎しみ――それらがブレンドされた顔だ。

 そのような負の感情を向けられたかと言って、こちらも同じ顔をしてはならない。

 憎しみに憎しみをぶつけても何も始まらない。

 俺は笑顔でニックスを送り出してやった。


「兄貴頑張って!」


 ニックスがドロテアお義姉さんに腕を掴まれ、部屋を出ていく際に小声で言うのだ。


「お前だけは絶対に許さない」


 ――本物の恨みが込められている気がしたが、きっと気のせいだ。

 だって俺たちは仲良し兄弟だ。

 冗談に決まっている。


「さ、ハニー、行くわよ。最低でも六人はスカウトしないとね」

「――はい」


 項垂れたニックスが、ドロテアお義姉さんに連れて行かれる。

 その背中には哀愁が漂っている気がしたが、きっと俺の気のせいだ。

 まったく、美人で巨乳のお嫁さんをもらって、何が不満なのか? しかも、随分と尽くしてくれる人だぞ。

 ――ま、俺なら遠慮するけどね。

 二人が去った部屋で、俺は無表情で立っているマリエを見た。


「で、お前は何の用?」


 マリエがツカツカと俺に近付くと、そのまま尻を蹴られた。

 女の子の蹴りではない。

 格闘家のように鋭い蹴りを放ってきた。


「痛っい!」


 いや、本当に痛い!? 体の芯にずしりとくる痛さだった。

 こいつ、小さい体なのに、パワーが尋常じゃないぞ!?

 マリエの顔が般若のようになっていた。


「誰の胸がないって! お前、私の胸を見たこともないだろうが!」


 本気でお怒りのようだ。

 俺はマリエの気迫に、後退ってしまった。


「だ、だって本当に――あ、嘘です。あるような、ないような――ちょっとくらいあるかも?」

「脂肪の塊に夢中になりやがってよ!」

「女性の胸には夢と希望が詰まって! ――ごめんなさい。これ以上は言わないので、構えを解いてください。本当に痛いから殴らないで」


 マリエが本気でシャドーボクシングを始めたので、降参しておくことにした。

 こいつの拳は重い。とても重い。

 男でも吹っ飛ぶくらいのパンチ力だ。

 骨まで響く威力を持っている。

 マリエが舌打ちをする。


「こっちは朝から、お義姉さんに道案内で疲れたっていうのに」

「ドロテアお義姉さんをこの部屋に連れてきたのはお前かよ」

「そうよ。それにしても、あの人も――相変わらず凄いわよね」

「――そうだね。首輪の交換をするような人だからな」


 思い出すのは春休みだ。

 ニックスとドロテアお義姉さんの結婚式は――ローズブレイド家の強い希望により、親類のみで執り行われた。

 正式なお披露目や結婚式もやったのだが、非公式――親族のみの場を、どうしても用意して欲しいと頼み込まれた。

 もう、伯爵家がこちらに頼み込んできたのだ。

 お願いだから、非公式の結婚式だけは身内だけで! ってね。

 その理由?

 ――指輪の交換ならぬ、首輪の交換をドロテアお義姉さんが希望したからだ。

 止めろと言っても、絶対に譲らなかった。

 正式な場では控えてもらい、非公式な場を用意するということでドロテアお義姉さんが渋々納得したのだ。

 縛り、縛られる関係でいたいんだって――凄いね。

 事情を知っている親類しか参加させられないよね。

 俺もマリエもドン引きした。

 ニックスはこれからが大変だな。


「私はそれよりも、お義兄さんへの愛の言葉が重すぎると思ったわね。どれだけ生まれ変わっても、貴方を見つけて結ばれる、って。重いわ。転生があるって分かっているだけに、余計に重いわ。――あの人、本当にやりそうじゃない?」


 俺たちは転生者だ。

 ドロテアお義姉さんの台詞が、妙に生々しく聞こえて血の気が引いた。

 どれだけ生まれ変わっても、お前は逃がさない――そんな風に聞こえた。

 そう思うと、ちょっとだけニックスが可哀想に思う。

 だが、これは必要なことだったのだ。

 マリエを助けるために、ちょっと無理をしたからその穴埋めというかフォローに生け贄が必要になった。

 その生け贄がニックスだ。

 ま、ニックスだって出世して美人のお嫁さんが手に入ったから問題ない。

 これは必要な犠牲であり、ニックスにとってもおいしい話だった。

 Win-winな関係だ。

 可愛い弟の頼みだから、許してね――お兄ちゃん。


「なら、案内だけで男子寮に来たのか?」

「あ、それもあるんだけどさ。ルクシオンはいる?」


 マリエが呼ぶと、何もない場所から突然姿を現した。

 光学迷彩で隠れていたのだ。


『お呼びですか?』


 俺は頭の後ろで手を組んだ。


「俺じゃなくて、ルクシオンに用事か? 今度は何だ? またお金を使い切ったから、こいつに偽札でも用意してもらうのか?」


 ルクシオンが俺の冗談を真に受ける。


『お任せください。本物よりも立派な紙幣をご用意しましょう』


 それって別物じゃん、なんて言う前にマリエが怒る。


「いつ私が、偽札なんて頼んだのよ! 普段から私をどういう目で見ているの!? そうじゃなくて、私たちはもう二年生になったのよ! ほ、ほら、そろそろ、色々とイベントが起きるから」


「あ~、イベントか」


 あの乙女ゲーは、二年生から本格的に物語が動き出す。

 物語の中盤からは、ファンオース公国との戦争がメインになってくる。

 マリエはそれを気にしていた。


「ほら、あの乙女ゲーって戦争がかなり難しかったじゃない?」

「鬼だったよな。悪意を感じるレベルだよ」


 今思い出しても酷いゲームだった。

 課金しないとクリアすら難しいとか、バランスがおかしすぎる。

 乙女ゲーに誰も難しい戦闘要素なんて求めていないのに、何をやっているのか。


「今はシナリオ通りに進んでいるけど、これからってやっぱり気になるし」


 もしも、主人公であるオリヴィアさんが負けたら――ゲーム的にはゲームオーバーだ。

 俺としてもそれは困る。

 マリエ曰く、あの乙女ゲーには続編まで出ている。

 それなのに、今後も登場するオリヴィアさんが死ぬのは避けたい。

 あと、知り合いが死ぬのは嫌だ。

 俺たちが困っていると、ルクシオンが言う。


『お二人の話を聞いて、常々思っていたのですが――戦争に学生を投入するというのは、末期的な状況まで追い込まれるのですか?』


 公国との戦争にオリヴィアさんや、ユリウス殿下をはじめとした学生たちも多く関わる。

 そして最終決戦にも参加するのだが――確かに、学生を駆り出すなど、国としてホルファート王国は大丈夫なのだろうか?

 マリエはあまり理解していなかった。


「何で末期的なのよ? 戦争には最終的に勝ったわよ」


 俺はマリエの答えに呆れてしまった。


「お前、学校――前世で習わなかったか? 戦争で学生まで動員した国はどうなったよ?」

「あっ!?」


 知識としては理解しているようだが、実感がなかったのだろう。

 物語としては、若者たちの活躍は美しいように見える。

 前世でも学生たちが活躍する物語は多かった。

 だが、現実として考えると――それは、ホルファート王国の大人たちが頼りにならないという意味ではないか?

 戦争に勝ったとしても、それはギリギリの勝利である。

 戦後が怖すぎる。


「そ、そうなると、あのゲームの話って――かなりまずくない!?」


 マリエも慌てるが、そもそもの流れを確認しよう。

 まずは、公国が宣戦布告をしてくる前に国内で空賊の動きが活発になる。

 軍が忙しく動き回る中、学園の生徒たちも課外授業で空賊に遭遇する。

 そこで勝利した学生たち。

 その後、空賊を裏で操るオフリー伯爵家の存在を知り、主人公がユリウスたち攻略対象の力を借りてこれを撃退する。

 しかし、その裏にはファンオース公国がいたと判明し、更に深く戦争に関わっていくことになるのだ。

 オフリー伯爵を使って、ホルファート王国を内側から崩そうとしていたのがファンオース公国だ。

 ここで問題になってくるのが、前回マリエを助ける際に倒してしまったオフリー伯爵家である。

 俺が倒してしまった。

 そして空賊も――俺が倒した。

 二年生のイベントに関わる重要な存在を、俺が潰してしまったのだ。

 ついでにイベントも潰したことになる。


「王国内で暴れ回る空賊も、それにオフリー伯爵家もいないからな」


 俺の発言にマリエも同意し、これからのことを不安がる。


「そうなのよね。後は、裏にいたファンオース公国だけになるわね。でも、あっちが本格的に動くのって三年生の時だし」


 そうなると、忙しくなるのは三年生の頃になる。

 今から準備をして――そこまで考えていると、ルクシオンが俺たちに呆れていた。


『黒幕が判明しているのなら、先に対処すればよろしいのでは?』

「――悪くないな」


 現段階で何もしていない公国に手を出すのは気が引けるが、俺は自分の安寧のためなら動くことはためらわない。

 マリエが手を叩き、閃いたという顔をしている。


「そうよ! 先にファンオース公国を倒してしまえば、戦争も起きないわよね!」

『はい。では、今すぐにファンオース公国の領地を――沈めてきます』


 ルクシオンの発言に、マリエは固まってしまう。

 こいつの笑えない冗談に、俺は注意する。


「もっと空気を読め、この殲滅馬鹿野郎。冗談に聞こえないんだよ」

『本気でしたが?』

「え?」

『沈めてしまった方が後腐れはないかと』


 こ、こいつ、本当に危険な人工知能だな。

 戦争を避けるために、国ごと沈めるとか発想がおかしい。


「馬鹿! 何で俺たちが大量虐殺なんてしないといけないんだ! 公国の浮島が沈んだら、いったいどれだけの人間が死ぬと思っている!」

『新人類が幾ら死のうと、私は困りません。むしろ、マスター風に言うならスカッとした! というところです』


 本当にこいつは――。


「命令だ。浮島を沈めるな」

『――了解しました』


 嫌々という感じで返事をしやがったよ、この人工知能!?


「出来るだけ穏便に戦争を回避するぞ。そうなると――公国には戦争を回避したいと思わせるのが重要だな」


 ファンオース公国の目的は、王国が存在する大陸を海に沈めることだ。

 そのための切り札を所持している。

 それを先に俺たちで奪うか、破壊すれば――公国は切り札を失って、目的を達成できなくなるな。

 俺が色々と今後について考えていると、マリエが安堵していた。


「あんたがルクシオンの手綱を握ってくれて助かったわ。これが下手な奴なら、こいつに逆に言いくるめられて、大変なことになっていたかもね」

『新人類が私のマスターになることはありません。もしも、そのような状況が発生すれば、私は自爆します』

「あんた極端よね。それはそうと、最近学園の雰囲気が悪いわよね」


 戦争がどうにかなると知り、安堵したマリエは世間話を俺に振ってくる。


「雰囲気? あぁ、女子たちが怯えているからな」


 一年生の終わり頃から学園の雰囲気は変わった。

 ユリウス殿下たちが、オリヴィアさんをいじめていた女子たちを退学させたのだ。

 それだけでは終わらず、いじめの大小に関わらず生徒たちが処罰されていった。

 関わった生徒たちをユリウス殿下たち攻略対象の五人が、競うように見つけ出して処罰を求め、大勢の貴族の子弟が学園を追い出された。

 結果、オリヴィアさんに「平民」と陰口を叩いた生徒まで見つけ出され、五人から責められ――学園の雰囲気は最悪だ。

 確かに、オリヴィアさんをいじめていた生徒たちが、罰を受ける展開はゲームにもあった。

 だが、ここまで酷いとは思わなかった。

 しかし、よく考えれば当然の流れでもある。

 攻略対象の五人は、今後国を背負っていく立場になる。

 そんな五人に目を付けられたら――学園どころか、人生が詰む。

 ――ゲームでは、主人公をいじめていた生徒たちが処分されたと軽い文章で流されていたが、リアルになると何とも生々しい。

 そして、問題は五人を虜にしたオリヴィアさんだ。


「最近は見かけることも少ないけど、オリヴィアさんは元気かな? 逆恨みされないか心配だし、本人はこの状況に心を痛めているんじゃないか? あの五人も、もっと回りに気を使って欲しいよな。最近は雰囲気が暗くて嫌になる」


 以前、オリヴィアさんを見かけた時は、純朴で優しそうな子だったからな。

 俺がオリヴィアさんを気にしていると、マリエが少しむくれてしまった。


「オリヴィアは、時々学園を抜け出しているみたいよ。それと、雰囲気が悪いのはオリヴィアたちだけのせいだけじゃないからね」

「え?」

「アンジェリカよ。殿下たちに追い詰められた子たちが、アンジェリカに助けを求めたの。そのせいで、殿下とアンジェリカの仲も悪くてさ。生徒同士でピリピリしているの。ま、私たち底辺の生徒たちには関係ないけどさ」


 追い詰められた生徒たちを、アンジェリカさんが庇ったのか?

 そのせいで、殿下たちと対立しているらしい。

 まぁ、ゲームではオリヴィアさんの敵だったし、対立するとは思っていたが――リアルで見ると、何とも微妙だな。

 追い詰められた生徒たちを庇っているように見える。

 それに、アンジェリカさんは生徒たちのまとめ役――公爵令嬢としての立場がある。

 周りも頼って仕方ないか?

 もっとも、俺たちのようなモブは直接関わりを持つことはない。

 アンジェリカさんにも近付けないし、五人に守られているオリヴィアさんも同じだ。

 殿下たちが警戒しており、男女共にオリヴィアさんには近付けない。

 物語が順調に進んでいるなら、会う必要もないからこちらかは近付かない。

 結果、俺たちは遠巻きに噂を聞くくらいになっていた。

 それにしても、ゲームでプレイするのとリアルは随分と違うな。


「まぁ、こっちは公国のことをどうにかするだけだな」


 一応、順調に物語が進んでいるのなら、後はこちらでフォローをすればいいと思考を切り替えた。

 マリエが腰に手を当てて溜息を吐く。


「物語を近くで見られると思ったけど、こんなものよね。同じ学園にいるのに噂しか聞こえてこないわ」

「モブの俺らには丁度良いさ。主役様たちに関わるなんて恐れ多いね」

「あんた、本心で言っているように聞こえないんだけど? それに、前に関わったじゃない」

「臨機応変に対応しただけだ」


 ルクシオンは、俺の物言いが気に入らないらしい。


『それは優柔不断と言うのです』


 ◇


 学園の廊下。

 夕方で人通りは少ない。

 そこをユリウスとオリヴィアが一緒に楽しげに歩いていた。

 学園の外から帰ってきたばかりの二人は、今日のことを話題に盛り上がっている。


「ユリウスは串焼きが好きなのね」


 微笑むリビアに、ユリウスは満面の笑みで答える。


「あれはいい! 手軽さもいいが、何よりもマナーを気にしないのが最高だ。それにしても、オリヴィアも楽しそうだったな」


「堅苦しい食事よりも、少し砕けた感じの方が好きなの」


「俺も同じだ。宮廷では色々と五月蠅すぎる。式典にしても、礼儀ばかりを重んじて無駄が多くてかなわないからな」


 オリヴィアと一緒にいると、ユリウスは全てを受け入れてくれる気がした。

 王太子として相応しくないとか、口うるさく言われることもない。

 それに、一緒にいて楽だった。


「オリヴィア、お前さえよければ――」


 俺とずっと一緒に、と続けようとしたユリウスに廊下の先から早足で近付いてくるアンジェリカが話しかけてくる。

 その表情は険しく、ユリウスは嫌気がさす。

 楽しい気分が台無しだった。


「殿下! ネヴィル伯爵の娘を退学に追いやるとは、いったい何をお考えなのですか!」


 日に日にきつい表情をするアンジェリカを見て、ユリウスは自分の気持ちが冷め切っているのを確認した。

 最近は、以前よりもアンジェリカを疎ましく思う。

 無意識のうちにオリヴィアを庇う位置に立つと、目を細めた。


「あの娘は、オリヴィアの陰口を叩いていた。生徒たちを集め、闇討ちまで計画していたそうではないか」


 そんな女子生徒を、アンジェリカが庇う。


「冗談の一つすら聞き流せないのですか! 確かに、度が過ぎましょう。ですが、注意すれば済む話を、どうして退学という話になるのですか? それに、聞けば闇討ちなど計画していないそうではないですか! 彼女は、私に泣いて無実を訴え来たのですよ!」

 アンジェリカの物言いに腹が立つ。

 貴族の娘の言い分を鵜呑みにしていると決め付け、ユリウスは静かに怒りを滲ませる。


「注意だと? アンジェリカ、やはりお前も平民を見下すのか? それに、相手の意見だけを聞いて、それを納得しろと本気で言っているのか?」

「な、何を言って――」


 アンジェリカが狼狽えているのを見て、ユリウスは確信する。

 振り返ってオリヴィアを見れば、アンジェリカに怯えていた。

 悲しそうに俯き、肩を狭めていた。

 庇護欲をそそられるその仕草に、ユリウスの心はかき乱される。


「いいんです、ユリウス。貴族様たちからすれば、私なんて殺されてもその程度の扱いですから。でも、私はそれでも――ユリウスの側に」


 いじらしい態度を見せるオリヴィアに、アンジェリカが激高する。


「貴様! 殿下に何を吹き込んだ! 貴様が殿下の御心を惑わせ――」


 詰め寄ろうとするアンジェリカを、ユリウスは手で制した。


「止めろ!」

「で、殿下? どうしてですか。どうして、私の話をきいてくださらないのですか!? ネヴィル伯爵は今回の件で憤慨しているのです。父上に殿下の派閥から抜けると宣言までしたのですよ。ネヴィル伯爵は、ユリウス殿下の派閥で重要な――」

「もういい」

「――え?」


 ユリウスはうんざりしていた。

 先程までの楽しい気分を台無しにされ、オリヴィアの手を取ってアンジェリカを無視して歩き出す。


「殿下!」


 声をかけてくるアンジェリカに、ユリウスは振り向きもせず言う。


「貴族の派閥争いなどうんざりだ! そのために、オリヴィアを巻き込むな」


 アンジェリカが下唇を噛みしめ、俯いてしまう。


「――その派閥が、殿下の治世には欠かせぬと、どうしてご理解いただけないのです」


 ◇


「アハハハ! あのホルファートの血を引く娘が、悔しそうな顔をすると気分が晴れるわね!」


 学生寮の近くに用意された小さな屋敷。

 そこはオリヴィアの専用の宿舎だった。

 ユリウスたちが用意させたもので、小さいながらも造りもしっかりして調度品も豪華である。

 そんな屋敷で、オリヴィアは風呂に入っていた。

 自らの体を丁寧に洗っている。


「血肉があるのはいい。世界に関われている実感が強いからな」


 久しぶりの肉体だ。

 かつて聖女と呼ばれた女性の怨念が、オリヴィアの体を奪っていた。

 だが、時折体に不調が出てくる。

 腕が痺れて動かなくなった。


「完全に馴染むにはまだ時間がかかるか」


 自分の右手が、首を掴もうと動いている。

 それは、体を乗っ取られたオリヴィアの抵抗だった。


「オリヴィア――まだ抵抗するのか? お前は強い子だ。だが、私はこの時をずっと待っていた。私とリーアの復讐が終わるまで付き合ってもらうぞ」


 次第に右腕が動くようになると、オリヴィアは立ち上がる。


「――さて、ユリウス派閥の切り崩しも進んだ。この国の売国奴共との話も順調だが、もう少しだけ遊ばせてもらおう」


 オリヴィアは天井を見上げ、そして妖しく笑みを浮かべた。


「さて、一芝居打つとするか」


 ◇


 ファンオース公国の王城。

 深夜、公王不在の城に忍び込んだ俺たちは、宝物庫に入り込んでいた。


「どれが魔笛だ?」


 魔笛――それは一作目と三作目のラスボスを呼び出すキーアイテムである。

 主人公が所持しないので性能は不明だが、公国のお姫様たちが吹くとモンスターを出現させ、操ることが出来るのだ。

 非常に厄介な公国の切り札だ。

 一緒に忍び込んだマリエが、公国の宝物庫にあるお宝を前に目を輝かせている。


「見てよリオン! このアクセサリー凄い。売ったらいくらになるかしら?」


 お姫様がつけるような装飾品の数々を見て、身につけるよりも売り払ったら幾らになるのか考えていた。

 少し前は玉の輿狙いの女で、お姫様に憧れていたのにね。


「盗むなよ」

「盗まないわよ! それより、よくこんなに簡単に忍び込めたわね」


 その理由は、ルクシオンにある。

 周囲を警戒するルクシオンが、マリエの疑問に答える。


『 “あの乙女ゲーの続編”を聞いたマスターが、遅ればせながら周辺国の調査を私に命令しました。範囲が広く、時間もかかっていますが城に忍び込む程度の情報なら簡単に手に入ります』

「あんた、何でも出来るわね」

『はい。私は優秀ですから』

「――あんた、自信過剰ね」

『事実です。それから、魔笛と思われる道具は常にどちらかを他で保管しています。ここにあるのは、二つの内の一つです』


 ラスボスを召喚する魔笛は二つあったのだ。

 俺は、魔笛は一つだと思っていたし、ヘルトルーデに妹がいるなんて知らなかった。

 マリエからあの乙女ゲーに続編があると聞いた時は驚いた。

 このまま放置も出来ないので、ルクシオンに調査をさせたのだ。

 マリエが一番豪華な台に飾られた笛を見つけた。


「あったわ! きっとこれよ! こんな形だって気がするわ!」

『あ、そちらは偽物です』

「え?」

『本物は隠してあります。仕掛けはこちらを――』


 俺とマリエは、宝物庫にある仕掛けを動かして魔笛を発見する。


「あったな」

「偽物まで用意するとか、どれだけ慎重なのよ」


 黒く刺々しい笛を発見した俺たちは、実物を前に手を伸ばす。

 しかし、ルクシオンに邪魔される。


『迂闊に手を出さないでください。仕掛けがあるので、それを外してから取り出さねば罠が発動します』

「厳重だな」


 仕掛けを外してから魔笛を回収したが、何だか禍々しい笛だ。

 マリエが魔笛を見ながら首をかしげる。


「これ、どうするの?」


 破壊する方が安心できるが――破壊後に何が起きるか分かっていない。

 不用意に破壊して、封印されていた巨大モンスターが出現した! 何て展開になっても怖いので、魔笛は持ち替える。


「持ち帰ってルクシオンに調べてもらう」

「ふ~ん。あ、そうだ。前に聖女の首飾りも調べたのよね? あれ、どうなったの?」


 俺が手に入れた聖女の首飾りには、何か怪しい存在が取り付いていたようだ。

 それをルクシオンが捕らえ、今は調査中だった。


『実に面白い存在なので、調査を継続中です。では、念のためにこちらのケースで魔笛を保管してください。これに入れておけば、簡単には取り出せなくなります』


 アタッシュケースに魔笛を入れて、俺たちは移動を開始した。

 公国の城の中では、見回りをしている騎士や兵士たちがいる。

 だが、彼らがどのルートを辿って警戒しているのか――どこが手薄なのか。

 全てリアルタイムでルクシオンが情報を得ているため、敵に出会うことなく次の目的地に到着する。

 その場所は――第二王女【ヘルトラウダ】の寝室だった。

 部屋の前には見張りをしている騎士たちがいる。

 そんな騎士たちに、俺はサイレンサー付きの拳銃で狙いをつける。


「少し眠ってくれよ。すぐに終わるから」


 パシュッ、という音が数回。

 撃たれた騎士たちは、急な痛みに驚くが武器を手に取ろうとして――白目をむいてそのまま倒れた。

 ルクシオンが俺を急かしてくる。


『交代する騎士が来るまで三十分程度です。急いでください』


 それは分かっているのだが――。


「女の子の部屋に入るとか、ちょっときまずいな。マリエ、取ってこいよ」

「はぁ!? 何で私が危険なことをしないといけないのよ。あんたも来い!」


 ――マリエに手を引かれる俺は、ヘルトラウダ殿下の部屋に入った。

 中には女性が数人いるのだが、麻酔銃ですぐに眠らせる。

 ルクシオンがすぐに部屋の中をスキャンした。


『ありました』


 部屋の中の仕掛けを動かすと、壁に掛けられていた絵画が横に移動して金庫が出てくる。

 マリエが金庫に近付いて、ルクシオンを見た。


「暗証番号は?」

『そちらのダイヤルはフェイクです。開け方は――』


 指示通りに金庫を開けると、マリエは中から魔笛を取りだした。


「二本目ゲット~!」


 小声でそう言って、マリエは二つ目のケースに魔笛を収めた。

 これで公国の切り札は奪ったので、戦争回避に大きく近付けるだろう。

 俺たちが顔を見合わせ、すぐにこの場から逃げようとすると――。


「誰? 父上? 母上?」


 ――ヘルトラウダ殿下が起きた。

 すぐに麻酔銃を殿下に向けると、マリエが俺を止めてくる。


「馬鹿! まだ子供じゃない!」

「馬鹿はお前だ!」


 幸いにして俺たちの格好は、黒ずくめ。

 顔も隠している。

 だが、姿を見られたのはまずい。

 声も聞かれてしまった。

 すぐに眠ってもらおうとしていると、ヘルトラウダ殿下も徐々に覚醒してくる。

 壁の仕掛けが開けられ、侍女たちが床に倒れているのを見て目を見開いていた。


「き、貴様らはどこの手の――」


 大声を出そうとしたので、マリエがすぐに口を塞いだ。


「ちょっと、声が大きいわよ! 人が来ちゃうじゃない!」


 そのために大声を出したんだろうが。

 どうしようかと思っていると、ルクシオンが俺に小さい声で伝えてくる。


『この部屋の音は外に聞こえないようにしています。マスター、穏便にすませたいなら――』

「――はぁ? それでいいのか?」

『はい』


 ルクシオンのアドバイスを聞いて、本当にその通りにするのか少し悩んだが――迷っている時間もないので従うことにした。

 ロングストレートの黒髪に、赤い瞳に気の強そうな顔付き。

 マリエと背丈は近いのだが、違っているのは髪や目の色だけではない。

 年齢はマリエよりも下のはずなのに、マリエよりも立派な胸を持っていた。

 発育って残酷だな。

 俺は威嚇のために麻酔銃を向けたまま、ヘルトラウダ殿下に近付いた。

 ヘルトラウダ殿下は、涙目だが俺を睨み付けてくる。


「おい、手を離してやれ」

「い、いいの?」

「伝えることがある」


 マリエが押さえていた口を解放すると、ヘルトラウダ殿下が大声を出すのだった。


「くせ者よ! 誰かいないの!」


 幾ら叫んでも誰も来ない。

 それを知って、ヘルトラウダ殿下は少し落ち着いていた。


「――外の兵士たちはやられたようね」

「凄く弱かったですね。公国の兵士は質が低い」


 キッと俺を睨み付けてくるヘルトラウダ殿下に、俺は真実に近付くヒントを与えることにした。


「魔笛はもらっていきます。これで、公国は王国に対する切り札を失いますね」

「――そうね」


 俺から視線をそらしている。

 まだ、もう一つ残っていると安心しているのだろう。


「宝物庫の魔笛も回収済みです。仰々しく飾られていた偽物ではなく、隠されていた本物を見つけ出しました」


 少しだけ肩が動いた。

 動揺してくれたようだ。

 マリエは俺たちのやり取りをジッと見ている。


「悔しいですか?」

「別に。私を殺したければ殺しなさい。ですが、必ず報いを受けることになるわよ」

「――本当に憐れな子だ。何も知らずに、いいように操られていることにも気付かない」

「何ですって?」

「真実が知りたいなら、書庫番の老人にでも聞きなさい。本当の歴史が知りたい、とね。他の者ではなく、老人に聞くことだ。この城には、お前たちの敵が沢山いるぞ」


 銃口を向けたまま、俺はマリエを連れて部屋を出た。

 そしてドアを閉めたら全速力で逃げ出した。

 マリエもついてくる。


「ちょっと、今の話は何よ! 私、何も聞いていないわ!」

「俺だって知らないよ! ルクシオンがそう言え、って言うから!」

『これでヘルトラウダが行動を起こせば、マスターの言う平和なスローライフへ一歩近付けますよ』

「本当だろうな!? こんな、怪盗の真似事なんて二度とごめんだぞ!」


 必死に逃げて、城の中庭に隠していたエアバイクに乗って俺たちは逃げ出すのだった。


 ◇


 翌日。

 ヘルトラウダの部屋には、役人たちが押し寄せていた。

 調査を専門とする役人たちが、魔法や道具を使用して侵入者たちの痕跡を探していた。

 だが、何も見つからずに頭を抱えている。


「いったい誰が侵入したのだ」

「王国か?」

「騎士も侍女も、敵の侵入に気が付かないとは――」


 その様子を見ているラウダの周りには、ゲラット伯爵がいた。

 自慢の髭を指で優しくつまむように撫でているが、ヘルトラウダには刺々しい態度を見せる。


「ヘルトラウダ殿下、失態でしたね。よりにもよって、魔笛を奪われるのを見ているしか出来ないなんて」

「――言い訳はしないわ」

「当然ですよ。魔笛は公国の宝。魔笛の適性があるからこそ、殿下たちは後継者たり得たのです。それなのに、魔笛を奪われてしまってどうしますか」


 家臣なのに随分と上からの態度を取る男だった。

 王家への尊敬の念などない。

 責め立てるゲラットを見ていられず、ヘルトルーデが近付いてきた。


「騎士たちが手も足も出ない者に、ラウダが抵抗できたとでも? ゲラット、ラウダをすぐに休ませなさい」


 ゲラットは不満そうにしていた。


「それは出来ません。すぐにでも不届き者の情報を集めなければ。重要な目撃者はヘルトラウダ殿下ただ一人。休むのは調べ終わった後になりますね」

「ゲラット!」


 ヘルトルーデが激高すると、巨漢の男がやって来る。

 初老で、鎧を身につけたその男が来ると、ゲラットが気弱な態度を見せた。


「こ、これは黒騎士殿」

「ヘルトラウダ殿下はお疲れのご様子。休ませるが、問題ないな?」

「え? ――は、はい! もちろんですとも」


 黒騎士――その男に威圧され、ゲラットは渋々と引き下がった。

 その様子を見ていたラウダは、侵入者たちの言葉を思い出す。

(この城には私たちの敵がいる、か)

 念のために調べておくため、ラウダはその日の夕方に書庫へと向かった。

(この騒ぎなら、普段は私の護衛をしている騎士たちもまけるかな)


 ◇


 騒ぎを利用して一人になったラウダは、侵入者たちの言うとおりに書庫番の老人に話しかけて真実が知りたいと告げた。

 老人は最初に驚いた顔をして、一度は断った。

 だが、二度目に頼むと「本来なら処分しろと命令されたものです」と、本を数冊用意してきた。

 それはとても古い本だった。

 それを呼んだラウダは驚く。


「――何よこれ」


 そこに書かれていたのは、王国と公国の歴史だ。

 自分が知っているのとは違った。

 一方的に王国が悪いと教わってきたのに、歴史を調べてみれば公国に原因があったのだ。

 驚いているラウダに、老人が話しかけてくる。


「先代の陛下と王妃様が亡くなられた後に、これらの書物は破棄するように命令が出されました。ですが、歴史的に価値があるもので、処分するには忍びなく」


 ラウダは震えていた。


「じ、事実なの? これが真実だというの!?」


 老人は頷いた。


「王国が二十年も前に攻め込んだのも事実です。ですが、その前には公国が王国で暴れ回って同じ事を――」


 ラウダは、今まで聞いていた話とは違うと狼狽する。


「どうして。どうして教えなかったのですか!」

「――殿下、申し訳ありません」


 老人が膝をついて頭を下げると、涙を流していた。


「お二人がお生まれになってすぐに、公国内では和平派の陛下たちが、主戦派の諸侯たちに暗殺されたのです」

「あん、さつ?」


 そこから語られるのは、公国では公然の秘密というものだった。

 当時の王家は王国との和平を考えていた。

 それに対して主戦派は激怒し、公王と王妃を暗殺してしまった。

 残された二人の姫を主戦派が担ぎ上げたのが、今の状況だった。

 ラウダは膝から崩れ落ちると、泣きながら笑う。


「そんなのってないわよ! これじゃあ、本当に私たちは――ま、待って。なら、バンデルは? お姉様の護衛のバンデルはどうなの? 私たちに近付けるのは、お父様やお母様を裏切った主戦派なのよね!?」


 老人は苦しそうに告げる。


「バンデル殿は――暗殺には関わっておりません。ですが、昔から主戦派の重鎮です。知らなかったとは、思えません」


 ラウダは、一体何を信じれば良いのか分からなくなった。


 ◇


 ファンオース公国から帰還した俺とマリエは、ルクシオン本体にある研究室的な場所に来ていた。

 そこで魔笛の解析を進めている。


『驚きました。こちらは、旧文明が崩壊後に作られた道具になります』

「それってどういう意味だ? お前らの時代の道具じゃないのか?」

『はい。私たちの文明と、マスターたちの生きる今の文明の間にいくつかの文明が存在していたと考えています。これは、その時代のものです』


 俺とルクシオンとの会話を聞いているマリエは、魔笛を見ていた。


「それは分かったけど、それが何なのよ?」

『その文明はモンスターを操る道具を完成させたのでしょう。魔法的な契約によってモンスターたちを従えていると判断します。その際の触媒は、術者の魂です』

「え!?」


 マリエが驚いて、魔笛から距離を取った。

 俺も静かに一歩だけ下がる。

 魂を吸う道具とか、怖くて仕方がない。


「さっさと壊そうぜ」

『有用なので解析をしてから破壊します。ですが、ご安心ください。その辺にいるモンスターたちでは、魂を奪われることはありません。精々、精神的な疲労感を味わうだけでしょう。ただ、この魔笛に封印されている人工的に作り出されたモンスターは別ですね』


 魔笛には巨大なモンスターが封印され、笛を操ることで自由に呼び出しが出来る。

 厄介なのは、その巨大なモンスターは倒してもすぐに復活することだそうだ。


『封印というのは正確ではありませんね。この魔笛には巨大モンスターの元になるデータが保存されています。術者は魂を使って周辺の魔素を集めて巨大モンスターを実体化させるのです』


 マリエはよく分からないので、さっさと破壊したいようだ。


「面倒ね。壊せないの?」

『いえ、壊せば周囲に影響なく破壊できます。使用されている魔法と科学技術に価値があるので、解析を続けたいのです』


 面倒にならないなら、俺はそれで構わない。


「ちゃんと壊せよ」

『もちろんです』


 研究室には、他にもルクシオンが集めたと思われる様々な道具や生物が保管されていた。

 中にはモンスターまでいる。

 中でも、特別厳重に保管されているのは――球体のガラスに封じ込められた黒い影だった。

 それは女性のシルエットをしているが、暴れ回っているように見える。


「それで、これは何だ?」


 俺が指をさすと、マリエも気になっているようだ。


「こいつ、どこかで見たような――見なかったような」

『首飾りに取り憑いた存在です。アストラル体ですね』


 それって幽霊とか怨霊だよな?

 ファンタジー世界に転生して、初めて実物を見た。

 だが、捕らえられている姿を見ると怖くない。


「聖女の首飾りに取り憑いていた奴か。これ、何か言っているのか? 暴れ回っているように見えるけど?」

『音声を遮断し、中からは外の景色が見えないようにしています。ここから出せと騒いで、こちらの質問にはまったく答えないので――実験を繰り返しております』


 マリエが俺の手にしがみついてくる。


「リオン、私は怨霊よりもルクシオンの方が実は怖い奴なんじゃないか、って思うんだけど」

「奇遇だな。俺も同じだ」

『失礼な人たちですね。私は人類に危害は加えませんよ』


 こいつ、嘘吐きやがった。


「嘘を言うなよ。お前、初対面の時に殺しに来ただろ!」

『――不幸な誤解がありましたね』


 何て奴だ。

 そう思っていると、マリエが更にルクシオンの問題点に気付く。


「ちょっと待って。こいつの言う人類、って旧人類の事よね? こいつ、私たち以外は人類と認めていないんじゃないの?」


 俺とマリエがルクシオンに視線を向けると――赤い一つ目をそらした。


『さて、マスターたちもいるので、この怨霊と会話をしてみましょうか。何か分かるかもしれませんから』


 話をそらすな! そう言いたかったが、俺たちのことが見えるようになった怨霊がでかい声で叫ぶのだ。


『殺してやる! 皆殺しだぁぁぁ!!』


 あまりの声量に、ルクシオンが音声を絞っていく。


『五月蠅いですね。貴方が希望したマリエを連れてきましたよ。何か違った反応を見せてください』


 ルクシオンがそう言うと、黒い影に赤い目が二つ。

 マリエを見て飛びかかろうとして――ガラスに遮られ、こちらに近付けなかった。


『見つけた。見つけたぞ、マリエェ! 私の血を引く者よ。さっさとその肉体を寄越せぇぇぇ!』


 言っていることが酷すぎる。

 それに、見た目も凄く怖い。

 本当に悪霊、って感じだ。

 ただ、捕まっているためか、マリエは鼻で笑っている。


「動物園の猛獣みたいな奴ね。そもそも、人の体を寄越せとか酷くない? ルクシオン、こいつ消しちゃって」

『そうですね。解析もほとんど終わっているので、問題ないと判断します』


 二人の会話を聞いた悪霊が吼える。


『お前はそれでも私の子孫か! 憎くないのか、ホルファートがぁぁぁ!! あの糞野郎共の子孫たちを地獄に叩き落として、私はリーアの――リ……アの……?』


 悪霊が俺に視線を向けてきた。

 赤く鋭い目が、俺を見ると丸くなっている。


「お、おい、何だよ。なんで俺を見るの? え、もしかして俺って呪われるの?」


 怖がって引き下がろうとすると、悪霊が膨れ上がって更に暴れ出す。


『リーア――リーアァァァ!!』

「ぎゃぁぁぁ!!」


 俺に迫ろうとしてくる悪霊の迫力と言ったら――怖くて泣きそうになった。

 球体ガラスにひびが入ると、壁が出現して悪霊を隔離した。

 俺一人、呼吸が荒くなっていて胸に手を当てて安堵している。


「あ~、怖かった」


 そんな俺を見て、マリエはクスクスと笑っていた。


「何よ、男なのに情けないわね」

「いや、怖いだろ!? お化けとか普通に怖いから!」

「はっ! 世の中はね、お化けよりも怖いものがあるのよ。現実の方がよっぽど怖いわよ」


 前世で過酷な人生を歩んでいたマリエには、お化けよりも怖いものがあるようだ。

 俺はお化けを怖がったことを隠すように、ルクシオンの失態を責める。


「おい、ちゃんと管理しとけよ。逃げ出したらどうするんだ」

『驚異的なパワーでしたね。それにしても、マスターに反応していたように見えます。本人が希望したマリエよりも、どうしてマスターに反応したのでしょうか? それに、マスターを見てリーアと呼んでいました』

「知るかよ! あ~、怖かった。今日は帰ってさっさと寝るわ」


 風呂もトイレも早めに済ませて、今日は布団にくるまって寝よう。

 マリエが俺をからかってくる。


「もしかして怖いの? 夜中にトイレに行けないとか? リオンって可愛い~。私が添い寝でもしてあげようか?」


 馬鹿にしやがって!


「怖くないっての!」

「ムキになるところが子供よね」


 ――こ、こいつ、怖くないからって威張りやがって。

 それにしても――聖女のキーアイテムが呪われているとか、これって危険なのではないだろうか?

 ルクシオンに調査させるか。


「ルクシオン、少し頼みがあるんだ」

『何ですか?』

「聖女のアイテムについて調べて欲しい」

『――可能ですが、優先順位とリソース的に後回しになります。現在、この星の調査を進めています。本体もしばらくは反対側へ移動するので、調査にはしばらく時間をいただくことになりますよ』


 手広く調べさせすぎて、ルクシオンがこなせる仕事量を超えつつある。


「他の国も気になるからな。――だけど、こっちも重要だ。調べてくれ」

『――了解しました。出来うる限り急ぎましょう』


 どこか納得できていない声に感じたが、気のせいだろうか?


 ◇


 球体ガラスの中。

 閉じ込められた初代聖女の怨念は、座り込んだような姿を見せていた。


「間違いない。リーアだ。どうして――何故だ?」


 すすり泣き、怨念は自分の子孫が隣に立っていたのを思い出す。


「そうか。あの娘――マリエと結ばれたのか。そうか――」


 生前は叶わなかった自分の願いは、時代を超えて今の時代で実現していた。


「リーア、私は……生きて貴方と結ばれたかった」


 泣き続ける怨念は、そのままガラスの中で大人しくなるのだった。


 ◇


 夜。

 学園の外に出ていたオリヴィアは、ユリウスとジルクを連れていた。


「二人とも、買い物に付き合ってくれてありがとう」


 笑顔を見せるオリヴィアに、二人は照れている。


「気にするな。この程度、どうということはない」

「えぇ、そうですよ。私も殿下も、オリヴィアさんのためならいくらでも時間を作りますからね」


 二人は乳兄弟――幼い頃から一緒に育ち、大変仲が良い。

 だが、オリヴィアを前にしては、競うように話しかけてくる。


「ありがとう。でも、ジルクは予定があったんじゃないの?」


 オリヴィアは、そんな二人を弄ぶのだった。

 ジルクに予定があるタイミングを狙い、買い物に誘っていた。

 ただ、ジルクは気にした様子がない。


「構いませんよ。大事な用事ではありませんでしたから」


 笑顔のジルクを、少し拗ねたユリウスがちょっとだけ責めた。


「大事な用事ではない、か。確かに、お前にとっては婚約者との話し合いはどうでもいいのだろうな」

「で、殿下。オリヴィアさんの前で、そのようなことを言わなくても」

「これで何度目だ? いい加減、相手をしてやれ」

「それは私に、オリヴィアさんの誘いを断れという意味ですか? 残念ながら、今は学生の身です。実家のことに縛られるのは嫌なので、自由にさせてもらいますよ」


 ジルクの予定というのは、婚約者であるクラリスとの話し合いだ。

 最近の学園の様子を気にしたクラリスが、ジルクに大事な話があると何度も呼び出していたのだ。

 オリヴィアは――その度にジルクを誘って、学園の外に出かけていた。

 そして、ジルクはオリヴィアの予想通りに動いてくれた。

(心配する婚約者を何度も放置して、この程度の認識か。お前がそう思っていても、相手も同じとは限らないというのに)

 オリヴィアはクラリスという女性は、情が深いと思っている。

 ジルクのことを本当に愛している。

 そんな二人を引き裂こうと思ったが、ジルクの方は最初から愛してなどいなかった。

 その点だけが非常に残念だ。

 わざと人通りの少ない路地を歩いている三人。

 こんな場所を歩いているのは、オリヴィアが「こっちが近道ですよ」と二人を誘ったからだ。

(さて、そろそろかかるかな)

 オリヴィアが笑顔を見せながら、周囲の気配を探っていると――期待通りの反応があった。

 武器を持った男たちが、フード付きのローブをまとって現れる。

 路地で三人を挟み込むように、現れると武器を抜いた。

 ユリウスとジルクが、すぐにオリヴィアを庇う位置に立つ。


「何者だ!」


 ユリウスが大声を出すが、男たちは動じなかった。

 ジルクは拳銃を懐のホルスターから取り出して、男たちに向ける。

 すると、男たちの仮面から除く視線が険しいものに変わった。

 オリヴィアは確信する。

(ほら、釣れた)

 男たちを代表して、一人がオリヴィアに怒気を放つ。


「この――魔女め!」


 武器を手にした男たちが、三人に襲いかかる。

 ジルクも拳銃で敵を撃つが、相手が多く囲まれているので厳しい状況だった。

 それに殺しにかかってくる敵は、死兵――命を投げ捨てるつもりのようだった。

 攻撃されても、構わずに斬り込んでくる。

 撃たれることを恐れず、三人に向かってくる。


「こいつら、一体何者だ!?」


 その異様さにユリウスも驚き、ジルクも焦っていた。


「殿下、私が退路を切り開きます! その間にオリヴィアさんと一緒に逃げてください!」

「そんなことが出来るか! 三人で生き残るぞ!」


 美しい友情を見せられ、オリヴィアは瞳を潤ませる。


「二人とも――頑張って!」


 そして、内心では反吐が出ると思っていた。

(代を重ねても、マーモリアはホルファートの腰巾着か。本当に虫唾が走る)

 すると、建物の屋根から笑い声が聞こえてきた。


「そこまでだ、悪漢共!」


 飛び降りてきたのは、白いスーツに黒いマントを着用した男だ。

 仮面をつけていて、誰だか分からない。

 これにはオリヴィアも驚いた。


「――だ、誰!?」


 仮面をつけた男が、オリヴィアに背中を向けながら挨拶をする。


「義によって助太刀する。私のことは――仮面の騎士とでも呼んでもらおうか」


 ジルクは急に現れた男の加勢に、警戒しながらもお礼を述べた。


「助かります。殿下、これだけ騒げば人が来ます。もう少しの辛抱ですよ」


 ただ、ユリウスだけは微妙な反応を見せる。


「あ、あぁ、そうだな」


 襲撃者たちを相手にしていると、ジルクの言う通りだった。

 すぐに騒ぎを聞きつけた兵士たちが駆けつけた。


「――退くぞ」


 リーダーの言葉に、引き上げる襲撃者たち。

 すると、兵士たちが襲撃者たちを追いかけ――数人が仮面の騎士を取り押さえた。


「は、放せ! 何故私を捕まえるのだ!?」


 兵士たちは真剣だった。


「夜に変な仮面をつけてウロウロしている男がいたら、捕まえるに決まっているだろうが! お前も奴らの仲間か!」

「ち、違う! 私は仮面の騎士だ! や、止めろ。腕を捻るな!」


 その光景を見て、オリヴィアは内心で焦っていた。

(何者だ、こいつは? 私の計画を邪魔したのか?)

 すると、ユリウスが兵士たちに話をつける。


「――その男は俺たちを助けてくれた。悪いが、解放してやってくれ。そいつは悪い奴ではないと、俺が保証しよう」

「殿下!? わ、分かりました」


 困惑する兵士たちが、仮面の騎士を解放してやる。

 仮面の騎士は、着崩れた服装を整えていた。


「た、助かった。私はこれで失礼するよ」


 帰りは普通に歩いて去って行く。

 その後ろ姿を見るユリウスの何とも言えない表情を見て、ジルクが不思議がっていた。


「殿下のお知り合いですか?」


 ただ、ユリウスはそれを強く否定する。


「ち、違う! と、とにかく、無事に切り抜けられて良かった。それよりも、俺たちを襲撃したのはいったい何者だ?」


 覚悟を決めて襲いかかってくる者たち。

 しかも、ただの夜盗の類いではない。

 鍛えられた集団で、武芸にも心得があるのをユリウスもジルクも気付いていた。

 オリヴィアは二人に怪我がないかと心配したように声をかける。


「二人とも、それより怪我はない!? わ、私を守るために二人が怪我をしたなんて思うと、とても辛くて――」


 か弱い女性を演じると、二人はすぐにオリヴィアに怪我はないとアピールする。


「問題ない。お前はどうだ、ジルク?」

「私よりも殿下の方が心配なのですけどね」

「――お前も言うじゃないか」


 二人がオリヴィアの前で張り合い出した。

 それを見ながら、オリヴィアは仮面の騎士について思案する。

(仮面の騎士だと? ふざけた男だ。余計なことをしてくれたな)

 突如あらわれ自分たちを助けた存在に、オリヴィアは言い表すことの出来ない不安を抱くのだった。

(だが、計画は変わらない)

 オリヴィアは、まだ言い争いを続けているユリウスとジルクを誘導する。


「ふ、二人とも。実は、あの人たちに覚えがあるかも」


 それを聞いたユリウスとジルクは、言い争いを止めて怒気を放ち始めた。

 オリヴィアを襲撃した敵に対して怒っている。

(――さぁ、今度もかばえるか見せてもらうぞ、アンジェリカ)


 ◇


 翌朝。

 報告を受けたアンジェリカは、三年生であるクラリスと面会していた。

 場所は学園内の応接室。

 ただ、その入り口には騎士が配置され、窓には急ごしらえながらも鉄格子がはめられていた。

 クラリスは閉じ込められていた。


「――本当に、どうしてこうなってしまったのだろうな?」


 アンジェリカが手を握りしめ、クラリスの前に立っている。

 反対にクラリスは椅子に座り、目の下に隈を作っていた。

 以前よりも痩せ、髪も手入れが行き届いていない。

 乱れた髪の隙間から、酷く濁った瞳でアンジェを見上げている。


「私が命令をしたわ。取り巻きの子たちは、私の命令に従っただけよ」

「私の前でもそんな言い訳をするのか? クラリス、お前の取り巻きたちは自分たちが計画して襲撃したと白状したぞ。お前は一切関係なかったと証言している」


 クラリスは涙をポロポロとこぼす。


「本当に馬鹿な子たちよね。こんなことをして、私が喜ぶと思ったのかしら? ――どうして、私に言ってくれないのよ」


 泣き出してしまったクラリスを前に、アンジェリカは同情してしまう。

(あのクラリスがここまで追い込まれたのか)

 普段は笑みが絶えず、そしてその裏で色々と策を巡らせるタイプだった。

 ただ、情も厚い。

 取り巻きの男子たちに、随分と慕われていた。

 そんなクラリスの取り巻きたちが――オリヴィアたちを襲撃したのだ。

 クラリスがアンジェリカに頼み込む。


「私もあの子たちももう終わりね。ねぇ、アンジェリカ――最後にジルクと話をさせて欲しいの」


 アンジェリカは、力なく首を横に振る。


「犯罪者とは面会しないそうだ。何か伝えたいなら、私が伝言を預かろう」


 クラリスは肩を震わせながら笑い出した。


「そう? ならお願いするわ。――私はジルクを絶対に許さない。地獄の底でお前らが来るのを待っている、って伝えてくれる? ジルクも、殿下たちも――そして、あの女もみんな地獄に落ちろ! あんな女に騙されて――どうしてよ。どうして、私の話を聞いてくれないのよ」


 クラリスは大声で叫び、その後は泣きながら笑い続けて話にならなかった。

 アンジェリカは、そんなクラリスの姿を見ながら涙をこらえる。

(――私ではクラリスを庇いきれない。――私は、どうしてこんなにも無力なのだ。この状況を見ているしか出来ないのか?)


 ◇


 朝から学園の雰囲気がおかしかった。

 最近のピリピリした雰囲気は普段通りだが、教師たちまでも慌ただしく動き回っている。

 授業も自習ばかり。

 お昼を過ぎたら休校となってしまった。

 俺は師匠に何が起きたのかを聞きに来て、お茶をご馳走になっている。

 紅茶の香りが漂う室内は幸せだ。

 だが、そんな空間で嫌な話を聞くことになった。


「――大臣の娘が処刑されるかもしれない、ですか?」


 師匠は窓の外を見ていた。


「バーナード大臣をご存知かな? アトリー伯爵は、代々大臣職を担ってきました。ですが、今回の一件で失職しそうなのです。いえ、失職で済めば処罰は軽い方ですね」


 貴族は世襲制で、役職にしても代々引き継ぐ傾向にある。

 領地を持たない宮廷貴族たちにとっては、役職とは領主貴族が大事に守る領地と同じだ。

 それを失うというのは、大きな損失になる。


「――大臣の娘さんは何をしたんです?」


 師匠は困った顔をしていた。


「ユリウス殿下たちに、取り巻きを使って襲撃しました」

「嘘でしょ!?」


 それがどんな意味を持つのか――政治に疎い俺だってまずいとすぐに分かる。

 それを、大臣の娘が気付かないとは考えられない。


「宮廷から派遣された調査官たちの報告では、嫉妬に駆られての犯行だったとのことです。それを、本人たちも認めています」


 ――馬鹿なことをしたな。

 王太子であるユリウス殿下を襲撃するなど、貴族として終わりを意味する。

 アトリー家は取り潰される可能性が高いか?

 当主は責任を取らされるか?

 お家断絶だってあり得る。

 ただ――あの乙女ゲーでも、この流れはあったな。

 襲撃者のことは詳しく語られていなかったが、まさか大臣の娘が主犯だとは思わなかった。


「女性の嫉妬は怖いですね」


 俺の溜息交じりの呟きに、師匠は首を横に振るのだった。


「ミスクラリスは短慮な女性ではありません。取り巻きの生徒たちの勝手な行動でしょう」

「――取り巻きの連中は何を考えているんですかね? 主人の迷惑になると考えなかったんでしょうか?」


 主人を守ろうとしたのだろうが、おかげでその主人は追い詰められている。

 ゲームでもあったことだが、リアルだと笑えない。

 俺もゲームをプレイしていた時は馬鹿な連中だ、とは思っていた。

 だが、師匠は――襲撃した生徒たちを責めなかった。


「何やら不穏な空気を感じますね」

「そうですか? 馬鹿な連中が先走っただけでは?」

「ミスタリオン、彼らはこの程度の結果を予想できなかったと思いますか?」

「――俺でも思い付きますから、考えたとは思いますけど」


 何が言いたいのかと、答えを求める俺に師匠は言う。


「彼らを焚き付けた者たちがいるのではないか、と考えています。まぁ、学園でも力のないマナー教師の戯れ言ですがね」


 師匠はどこか他の教師たちとは違う。

 担当しているのがマナー教室なので軽んじられているのだが、師匠の爵位は高いと噂されていた。

 学園内で独特な雰囲気を出している謎めいた教師。

 そのため、今回の件は蚊帳の外に置かれているそうだ。


「水臭いですね、師匠。そこまで言うなら、何か俺に頼みがあるのでは? 俺に出来ることなら、何でも言ってください」


 師匠が困ったように笑い、そして顔付きを真剣なものに変えた。


「では、ミスタリオンに頼みがあります。襲撃者たちの護衛を頼めないでしょうか?」

「襲撃者たちの、ですか?」


 襲った側を守れとは不思議な頼みだ。

 その気持ちが顔に出たのだろう。

 師匠が手を組む。


「調査官たちがろくに調べもせずに引き上げています。襲撃者たちに面会できる教師は限られており、私では近付けません。――紳士を目指しているのに情けない限りですが、私では手が足りないのです。この一件、どうしても見過ごせません」

「随分とこの件にこだわりますね? 何か理由でも?」

「――罪滅ぼし、ですかね」


 師匠はそれ以上、俺に理由を語ってはくれなかった。

 だが、師匠の頼みだ。


「分かりました。俺に任せてください。お茶の腕はまだまだですけど、俺って荒事にはちょっと自信がありますからね」

「ミスタリオン、伯爵家を滅ぼした実力をちょっと、と言うのは過小評価しすぎではありませんか?」


 オフリー伯爵家とラーファン子爵家を潰した件だろうか?

 あれ、そんなに本気でもなかったのにね。


 ◇


『それで、襲撃者たちを救出すると? マスターは、本当に方針をコロコロと変更しますね。上司にしたくない人物です』

「そんな嫌な上司を持って可哀想だな、ルクシオン。――覚悟しろよ、ずっとこき使ってやるから」

『私を酷使できるなら、それも面白いでしょうけどね。ただ、引きこもり思考のマスターに、私の能力をフルで使いこなせるとは思えません』

「お前が全力を出す機会なんてごめんだよ。まぁ、お前みたいな怖い兵器を使わずに眠らせる俺って、きっとこの世界の救世主だな」

『面白い冗談ですね。マスターが救世主など、まったく笑えませんが』

「――なら、なんで面白いって言ったんだよ?」

『皮肉です』


 文句を言いながらやって来たのは、王城にある地下牢だ。

 そこにユリウス殿下たちを襲撃した男子たちが捕らえられている。

 ジメジメして嫌な感じのする場所だ。

 こんなところにお世話になりたくないものだ。


「先輩方、元気してます~?」


 軽いノリで挨拶をする俺は、鍵を指で遊ばせる。

 顔を上げる男子たちの中で、体の大きな先輩が立ち上がった。

 随分と首が太い。

 そう言えば、去年のエアバイクレースで上位入賞を果たした三年生だ。

 他の男子たちは俺を警戒していた。


「お前――バルトファルトか? 一時期有名になったな」

「今はその他大勢の一人ですけどね。――まぁ、色々と事情があるので助けに来ましたよ」

「助けに?」


 先輩たちが顔を見合わせる。


「――俺たちの口封じをするんじゃないのか?」


 とても意外そうな顔をして、俺に確認してくる。


「口封じ?」

「そうだ。俺たちが幾ら訴えも、誰も話を聞いてくれなかった」


 俺の側にいたルクシオンが、時間が迫っていることを教えてくる。


『マスター、師匠が稼いだ時間は残り僅かです。お話はここを出てからに』

「そうだな。ついでにお姫様も助けないといけないからな」


 それを聞いた先輩が鉄格子を掴んだ。

 ガシャン、という音が地下牢に響き渡る。


「お姫様!? も、もしかして、クラリスお嬢様のことか!」

「そうですよ。助けるんだから協力してくださいよ」

「わ、分かった。俺たちに出来ることなら何でもする!」


 俺はすぐに先輩たちを牢屋から出すと、用意していた服装に着替えてもらった。

 幸い、見張りは師匠のお弟子さんらしく、事前に話がついており俺たちを見逃してくれたのだ。

 それにしても、師匠って何者なのだろうか?

 見張りに顔が利くとは凄いな。


 ◇


 林の中にある道。

 馬車で輸送されるクラリスは、両手に手錠をかけられていた。

 室内には剣を持った女性騎士の姿がある。

 怪しい動きを見せれば、斬るという強い意志を感じる。

 女性は騎士家出身なのか、これから死ぬクラリスを前にして意地の悪い笑みを浮かべて話しかけてくる。


「名門貴族のアトリー家のお嬢様が、考えの浅いことだな。王太子殿下を襲撃するなど、貴族の恥さらしだ」


 クラリスは俯いて何も答えない。

 女性騎士は剣を抜き、刃をクラリスの首に押し当てる。


「今ここで、貴様の首をはねてやろうか? 急に暴れて抵抗したと言えば、周りも信じるだろうからな」


 脅してくる女性騎士は、クラリスが動揺しないことに腹を立てながら剣を鞘へとしまう。


「ふん!」


 目的地に到着するまで、クラリスをいたぶって楽しむつもりだったのだろう。

 クラリスはこの程度の人物を自分の見張りにつけた宮廷に、何か嫌なものを感じていた。

 ただ、それも今になってはどうでもいいことだ。

(――周りも随分と質の低い兵士たちね)

 ダラダラと歩き、私語が多い。

 それを上官が叱りもせず、一緒に加わって盛り上がっていた。

 ただの護送だ。

 クラリスに大した価値はなく、この程度の扱いを受けているとも言える。

 しかし、妙だった。

(これって、もしかして――)

 クラリスが答えを導き出すと同時に、馬車が揺れる。


「な、何だ!?」


 女性騎士が慌てて外へと飛び出すと、そこには兵士たちが倒れていた。

 魔法による攻撃で吹き飛ばされ、即死していている。

 その光景を見て、女性騎士が「ひっ!」と悲鳴を上げて青い顔をすると辺りを見回す。

 現れるのは盗賊らしき者たちだ。

(盗賊? 盗賊が魔法を使ったの? ――いえ、こいつら違うわ)

 盗賊とは思えないような動きをしていた。

 騒ぎもせず、それぞれが自分の役割を果たしている。

 逃げる兵士たちに止めを刺し、そして馬車へと向かってくる。

 女性騎士が剣を抜くが震えていた。

 ホルファート王国では、一部の高貴な女性たちのために同性の騎士を用意している。

 その数は少なく、ほとんどは式典などで見栄えを重視しているため実力は高くない。


「く、来るなぁぁぁ!」


 怖くなって逃げ出した女性騎士を、盗賊たちが追いかけていく。

 すると、離れた場所で悲鳴が聞こえてきた。

 クラリスは怖くなって震えてくるが、死を覚悟しているのに震えている自分が酷く滑稽に感じられた。

(私はまだ――生きたかったんだ)

 色々と諦めたが、体はまだ生きようとしている。

 ただ、もう間に合わない。

 盗賊の頭らしき人物が馬車のドアに手をかける。

 クラリスの顔を見て、そして腕を掴んで乱暴に外へと引っ張り出した。

 集まってくる盗賊たちは、全員が落ち着いている。

 クラリスは地面に放り投げられ、顔を上げる。


「あ、貴方たち、盗賊じゃないわね」


 鍛えられた兵士たちのような貫禄があった。

 銃を持っているが、わざと使用していないのも気になった。

 だが、目の前の盗賊たちは何も答えない。

 クラリスを確認し、そして目配せをすると斧を持っていた男が前に出てくる。

 クラリスの首を斬り落とそうとしていた。

(あぁ、ここまでなのね。――まったく、本当に嫌な終わり方)

 きっと、取り巻きたちも今頃は口封じをされているだろう。

 クラリスは、何も出来ずに消えていくのが本当に悔しかった。

 すると、林の中から発砲音が響いた。

 斧を持っていた男が腕を撃ち抜かれ、持っていた斧を手放してしまう。

 そして、盗賊たちはその懐に忍ばせた拳銃を抜き、周囲を警戒する。


「あっちだ。いけ」


 盗賊の頭に命令されて、数人が林の中に向かっていく。

 残った盗賊たちは周囲を警戒して動かない。

 盗賊の頭だけは、クラリスの頭部に拳銃を突きつけて引き金を引こうとしていた。

 何やら争う声が聞こえてくると、またも発砲音が聞こえてきた。

 盗賊たちの持っていた拳銃が全て撃ち抜かれ、盗賊の頭は腕を撃ち抜かれていた。

 林の名から出てくるのは、クラリスの取り巻きだった男子生徒たちだ。

 その手にはライフルを持っている。


「お嬢様ぁ!」

「あ、貴方たち」


 クラリスは取り巻きたちが現れ、安堵していた。

 その中に一人だけ見慣れない男子の姿がある。


「こんにちは、死ね――と、言いたいところだけど、お前たちには聞きたいことがある。大人しく投降しろ」


 見慣れない男子生徒はライフル構えていた。

 盗賊たちは顔を見合わせ――そして奥歯を噛みしめる。

 そのままバタバタと倒れていく。

 クラリスは、倒れた男たちが白目をむいて口から泡を吹いている姿を見た。


「毒を仕込むまで徹底していたのね」


 見慣れない男子生徒が、ライフルの銃口を倒れた盗賊たちに向けている。


「先輩たちはクラリス先輩の確保をお願いできますか?」

「分かった!」


 見慣れない男子生徒がこの場を仕切っていた。

 彼の側には金属色の丸い物体が浮かんでいる。


『――マスター、周囲に隠れていた賊の確保に成功しました』

「本当は全員を捕らえたかったけどな。――失敗したな」

『相手は手慣れています。気を抜けば危険です。ためらうのなら前に出ないでください。邪魔です』

「俺はお前の邪魔をするのが大好きだから嫌だね。――それに、色々と自分の目で見ておきたいんだよ」


 クラリスの手錠が外されると、見慣れない男子生徒が近付いてくる。


「よし、これで全員確保だな。悪いんですが、全員揃ってしばらく隠れてもらいますよ」


 クラリスは手首を気にしながら、見慣れない男子生徒に尋ねるのだ。


「隠れる? それよりも、貴方は一体――」

「話は後にしましょうか。あ、隠れる場所はいいところですよ。何しろ、温泉がありますからね。まぁ――温泉しかないとも言えますが」


 クラリスはその申し出を受け入れられなかった。


「助けてくれたことには感謝するわ。けれど、私がこのまま逃げれば、家族にまた迷惑がかかるの。もう、逃げられないのよ」


 これ以上は迷惑をかけられない。

 下手をすれば、自分以外の家族が処刑されるかもしれないのだ。

 見慣れない男子生徒がライフルを肩に担ぐ。


「その辺りは師匠に任せていますから安心してください」

「師匠?」

「――さぁ、行きますよ」


 見慣れない男子生徒が空を見上げれば、そこに一隻の飛行船が浮かんでいた。

 小型飛行船が、林の中に降りてくる。

 取り巻きたちが、クラリスを無理矢理連れて行こうとした。


「ちょ、ちょっと、貴方たち!」

「すみません、お嬢様。ですが、ここはバルトファルトの言う通りにしてください! 俺たちの罪は、俺たちが後で償いますから」


 クラリスを乗せた小型飛行船は、そのままその場から去って行くのだった。


 ◇


 王城にある一室。

 そこではオリヴィアとフランプトン侯爵の姿があった。

 フランプトン侯爵は、鷲鼻が特徴的で年齢よりも老けて見える男性だ。

 そんな男が苛立っている。

 それを見て、オリヴィアはわざとらしく溜息を一つ。


「――案外、役に立たないものね」


 その一言に、フランプトン侯爵が噛みついた。

 見た目は大人と若い女。

 だが、二人の間には、年齢の差を感じさせない何かがあった。


「ふ、ふざけるな! わしの手駒の一つが消えたのだぞ!」


 荒れ狂うフランプトン侯爵は、テーブルの上に持っていたグラスを叩き付ける。

 手の平が血だらけになるが、それを気にした様子もない。


「小娘一人殺せず、捕らえていた男たちも取り逃がす――その程度の手駒しか持っていないのに、随分と強気な態度だったわね。――尊敬するわ」

「ぐっ! ――だ、だが、これで敵対派閥や目障りな貴族たちは消えた。ヴィンスの奴は、頼りになる貴族たちを失い、宮廷の方は邪魔なアトリーが消えたのだからな」


 オリヴィアは――フランプトン侯爵と手を結んでいた。

 彼はレッドグレイブ家――アンジェリカの実家と敵対しており、王国内に二番目に大きな派閥を率いていた男だ。

 野心が強く、そして自らを賢いと思っている。

(小狡いだけの男が、賢者にでもなったつもりなのかしら? まぁ、私の手の平の上で踊ってくれれば問題ないわね)

 フランプトン侯爵が、オリヴィアの腕に輝く腕輪を見る。


「それよりも、お主が本当に聖女なのだろうな?」

「あら? 証拠は見せたはずよ」

「腕輪一つで信用できるものか! ――今すぐにでも神殿に出向き、聖女の杖を使って見せろ。そうすれば、わしとて――」


 自分の手駒が消えてしまい不安なのだろう。

 オリヴィアは左手を掲げ、腕輪から放たれる白い光で部屋の中を満たした。

 視界が奪われたフランプトン侯爵は、苦しんでいる。


「ば、馬鹿者! 急に光らせるな! ――目が痛いわい」

「手を見なさい」

「何?」


 先程まで傷だらけだった手の平が、今は血で汚れているだけ。

 拭き取ると、傷は綺麗に塞がっていた。


「――聖女の魔法というわけか」


 一瞬で、そして痛みもなく傷を治療して見せた。

 それだけで、フランプトン侯爵はオリヴィアを聖女だと信じてしまう。

 もっとも、聖女の腕輪を持っているため、それも信用する理由の一つになっていた。

 最悪、聖女を騙らせて利用するつもりだったのだろう。

(レッドグレイブ家がユリウスの後ろ盾になれば、貴方の立場はなくなるものね。貴方は私に頼るしかない)

 いつの時代も宮廷では争いがある。

 オリヴィアはそこを突いただけだ。

(それにしても、気になるわね。フランプトン侯爵が揃えた私兵が、ここまで簡単に倒されるとなると――こちらの動きを察した敵がいるのかしら?)

 捕らえた男子生徒たちには逃げられていた。

 だが、一部では「すでに自裁した」とか「処理された」という噂が出回っている。

 クラリスにしても同じだ。

 賊に襲われて死んでしまった、という噂が流れている。

 証拠などどこにもないのに、だ。

 それを都合良く解釈した貴族たちも多い。

 きっと誰かが「面倒になる前に処理したのだ」と。

 だが、そんな彼らを放置できない理由は――フランプトン侯爵が、彼らを焚き付けた本人だからだ。

 オリヴィアが魔女であり、王国の転覆を狙っているという話を彼らにしていた。

 ユリウスたちも誑かされており、王国は危機的状況である――と。

 国の中枢にいる侯爵の話だ。

 クラリスの取り巻きたちは、自分の主人も危険な目に遭うと思い行動した。

(いつの時代も人は簡単に騙される。――真実はいつもねじ曲げられるな。あの時もそうだった)

 オリヴィアは次の話題に移ることにした。


「フランプトン侯爵」

「何かな?」

「クラリスやその取り巻きに逃げられたのは誤算だけど、後から出て来ても彼らの証言など握りつぶせるわ。それよりも、今は公国よ。どうなっているのかしら?」


 フランプトン侯爵は、治療された自分の手を見ながら忌々しそうにその件について語るのだった。


「公国の臆病者共が、怖じ気付いたのだ。奴らは、攻め込むのは少し待てと言って来た」


 オリヴィアがその返答に眉を少し上げた。


「――どういう事かしら? 彼らなら喜んで攻め込むと言ったのは、貴方よね?」


 オリヴィアの放つ言い知れぬ雰囲気に、フランプトン侯爵の視線が泳ぎだす。


「いや、奴らが――」

「そんなことはどうでもいいのよ。公国には王国を攻め込ませて。そうすれば、貴方の政敵と一緒に処分できるわ」


 フランプトン侯爵の政敵――それはレッドグレイブ公爵だ。

 ユリウスを旗印に集まった公爵の派閥は、今は力を大きく落としてしまった。

 ここで更に疲弊させれば、フランプトン侯爵の敵はいなくなる。


「公国を動かせばいいのだな?」

「そうよ。国内で騒ぎを起こすのも忘れないでね。その対処は、貴方たちの派閥が行うの」


 オリヴィアの計画は、国内で騒ぎを起こしてそれをフランプトン侯爵が鎮圧する。

 その際に公国が動き、フランプトン侯爵の代わりにレッドグレイブ公爵家をぶつけて疲弊させるというものだった。


「――公国の連中の尻を引っぱたいてこよう」

「お願いするわ。――さぁ、これから楽しくなってくるわよ」


 オリヴィアはクスクスと笑うのだった。

(どこまでも追い詰めてあげるわ。リーアの国を奪ったお前らが、いつまでもこの大地の上に君臨するなどあり得ないのだから)


 ◇


 その頃の公国。


「お姉様、私の話を聞いてください!」


 王城の廊下を早足で歩いているのは、ヘルトラウダとヘルトルーデだ。

 前を歩くヘルトルーデを、ヘルトラウダが追いかける形だった。

 ヘルトラウダは、姉のヘルトルーデに必死に訴えていた。


「私たちは知らない事が多すぎるんです。公国は――」

「――ラウダ、貴方の話は聞きたくないわ。公国がかつて、王国で蛮行を働いたなど聞いたこともない」

「お姉様、私の話を聞いてください。お願いします。本当に、このままでは取り返しのつかないことになるんです!」


 公国では最近になり、主戦派を中心に出兵の準備が進められていた。

 王国へと攻め込むためだ。

 ヘルトルーデが歩き出すと、ヘルトラウダが追いかける。


「一度でいいんです。お姉様、一度だけ私の話を――」

「もう聞き飽きました」

「――お姉様」


 ヘルトラウダが立ち止まって俯くと、ヘルトルーデも立ち止まる。

 背中を向けたまま、ヘルトルーデは今後の話をする。


「ラウダ、今の貴方は戦場に連れて行けないわ」

「え? どういう意味ですか? 魔笛は奪われたのですよ! どうして、お姉様が戦場に出るような話になるんですか!」


 魔笛がない今、公国の姫たちを戦場に連れ出す意味はない。

 むしろ邪魔であるはずなのに、ヘルトルーデは戦場に向かおうとしていた。


「魔笛がなくとも、王国との戦いの旗印として私は戦場に向かいます。それに、王国は内輪揉めで忙しいみたいよ。私たちを利用して政敵を葬りたいという考えね。――本当に度し難い人たち。こんな彼らの話を聞いても、まだ公国に非があると言うのかしら?」

「そ、それは――でも、それとこれとは話が違います! それに、王国の話を一方的に信じるなんて危険です!」

「信じてなんかいないわ。でも、これはチャンスなのよ。公国が大陸に領地を持つ。――そこを足がかりに、私たちは王国を切り取るの。これからは、公国が奪う側に回るわ」


 ヘルトラウダは、本で読んだ光景が思い浮かんだ。

 昔――公国が王国の領地を蹂躙した時代と同じ事が起ころうとしている。


「お姉様、考え直してください。魔笛もなければ、公国の国力では王国に勝てません」


 切り札は自分たちの手にはない。

 それでも、公国は止まろうとしなかった。


「――ラウダ、貴方は城に残りなさい」


 ヘルトルーデは、歩き去って行く。


 ◇


 公国のとある場所。

 そこで密会しているのは、ゲラット伯爵と王国から来た密使だ。


「ふ~ん、それで?」


 ゲラットは密使から金貨の詰まった革袋を受け取っている。

 他には、芸術品なども受け取っていた。


「王国の第一陣は本気で叩いて結構です。我々はすぐには戦場に向かいませんからね」

「敵対派閥を倒すために、戦争を起こすなど王国の人間は酷いですね」


 そう言いつつも、ゲラットは芸術品を前にして自慢の髭を指でつまむように撫でる。


「よろしい! 公国の方は私で何とかしましょう。第一陣とは激しく戦い、第二陣には多少譲って引き下がればいいのですね?」

「頼みましたよ、ゲラット伯爵」

「任せなさい。それから、もしもの時は――」

「――ご安心ください。公国でもしもの時があれば、我々は貴方をいつでも受け入れましょう。その時は、今よりも上の待遇を約束しますよ」

「頼みましたよ」


 ゲラットは一人、公国が負けた際には王国への亡命を希望していた。

(どちらが勝っても私にとっては問題ない。本当の策士とは、勝っても負けても勝利を得るものなのです)

 ゲラットにとっての勝利とは、自分一人だけの勝利だった。


 ◇


 色々と忙しい俺だが、今日はニックスに呼び出されていた。

 ニックス曰く「たまには顔を出せよ。――お前には言いたいことが沢山あるんだ」とのことだ。

 ニックスが手に入れたお城で、夕食を食べに来ている。

 まぁ、親戚を呼んでのお食事会みたいなものだが、ニックスにネチネチ嫌みを言われるのを覚悟していた。

 俺だって責任を感じているから、嫌みくらい聞いてやるつもりだ。

 聞くだけだが。

 そんなわけで、元オフリー伯爵のお城――今はニックスとドロテアお義姉さんの愛の巣にお邪魔した俺とマリエは、夕食をご馳走になっている。

 しかし、本来ならこの場でニックスの嫌みを聞くはずだったのだが――。


「いや~、本当に苦しかったわ。近くに森がなかったら、私は食事にありつけなかったわ」


 ――マリエの話を聞いて、ニックスが右手で目を隠している。

 嗚咽を漏らしながら泣いていた。

 ドロテアお義姉さんも真顔になって、マリエに尋ねている。


「――貴方、その森で雑草を食べていたの?」


 マリエは不思議そうに首をかしげている。


「いや、雑草とかないから。どんな植物にだって名前があって、食べられるものはあるのよ。でも、おいしくないのよ。食べられるけど、食用には向かないって本には書いてあったわね」


 俺も言葉をなくしたよ。

 最初はオフリー伯爵の領地の話になり、その後にマリエの実家の話になり、マリエの実家での扱いに話が移り――マリエがどう生きてきたのか、という話になってしまった。

 ネチネチ嫌みを言い出すニックスに呆れたドロテアお義姉さんが、気を利かせてマリエに話を振ったのだ。

 だが、まさかその話が地雷だったとは思わなかった。


「でも、一番おいしいのはリスね」

「リス!? あ、あの、可愛らしい生き物のこと!?」


 ドロテアお義姉さんが驚いていた。

 ニックスや俺も同じだ。


「見つけた時はちょっと幸せな気分になったの。だって、貴重なタンパク質だし」


 こいつ、可愛い動物を見てもタンパク質にしか見えないとか嘘だろ!?

 だが、マリエの話はここで終わらない。


「獣って皮が売れるから、そのお金で新品の古着を買えたのよね。でも、森でも何度か怖い目に遭ったわ。猪とか熊って無茶苦茶強いの。倒すのに半日かかったこともあるし」


 い、猪や熊を倒した――だと!?

 俺はマリエの拳が重い理由を、何となく察してしまった。

 一応、確認しておこう。


「ほ、本当に猪と熊と戦ったのか?」


 マリエは「そんなわけないでしょ」と言いながらも。


「無傷の相手は流石に勝てないから、罠にかかった獣を狙ったわよ。それでも、倒すのに半日もかかったわ。でも、その後のお肉はおいしかったわ~。ついでに、毛皮も売れて二重の意味でおいしかったわね。新品の古着が一式揃ったもの」


 新品の古着って何だよ!?

 古着の時点で新品じゃねーよ!

 ドロテアお義姉さんが口元を抑えて、給仕をしている使用人を手招きして呼び寄せる。

 もうポロポロと涙をこぼして泣いてるじゃねーか!? ドロテアお義姉さんを泣かせるって、どれだけだよ!?


「お、奥様、何か?」


 給仕たちも先程の話聞いてドン引きし、中には泣いている子もいる。


「マリエちゃんにお肉を焼いてあげて」


 それを聞いたマリエが、喜びながら照れていた。


「いいんですか! いや~、催促したみたいで悪いな~」


 見れば、マリエのお皿の上は綺麗に片付けられている。

 さっさと食べ終わったことで、足りないのだと思わせたとか――そんな勘違いをしていたのだろう。

 ちげーよ! お前の話が原因だよ!

 ニックスが立ち上がり、俺に近付いてくると両肩に手を置いてきた。


「リオン!」

「な、何?」

「お前には色々と言いたいことがあるし、殴りたいと思っていた。正直、今日は殴ろうと思っていた」


 酷くない? 俺、ニックスを伯爵にしてあげたのに。


「だけど――だけど、この気持ちは飲み込んでおく」

「お、おう?」

「だからお前は、この子だけは幸せにしろ。いいな、絶対だぞ!」


 い、言われなくても、俺だってこれ以上マリエを追い込めない。

 追い込めないというか――マリエが想像以上にたくましく、そして強い理由が何となく理解できた。

 マリエの奴は、想像以上に野生児でたくましい。

 見た目華奢なくせに、こいつ猛者だよ。

 戦国武将とか、そんなレベルの強者だよ。

 マリエはステーキが運ばれてくると、目を輝かせていた。


「うわ~い。いっただきま~す!」


 ドロテアお義姉さんが涙を拭っている。


「いっぱい食べてね」


 嬉しそうにしているマリエを見ながら、俺はこいつの過去にどれだけ闇があるのか知るのが怖くなってきた。

 これからは、マリエの前で過去の話はしないと心に誓う。

 何しろ、前世もDV男に殺されているのだ。

 いったい、何をすればこれだけ不幸な女が出来上がるのだろうか?

 こいつ、本当に呪われているんじゃないだろうか?

 マリエがおいしそうに食事している姿を、涙を流しながら見ている俺たち。

 すると――食堂に慌てた使用人が駆け込んでくる。

 その様子から、ニックスはただならぬ気配を感じ取ったようだ。

 無礼な振る舞いは咎めなかった。


「何があった?」

「た、大変です。各地で反乱が起きたと報告が!」

「――何だと?」


 同時に王国内の各地で反乱騒ぎが起きているらしい。

 だが、俺から言わせてもらえばそれも怪しい。

 まだ誰が、とは判明していないようだが、ホルファート王国で反乱騒ぎは少ないというか起こりにくい。

 領主貴族たちはそこまで余力がなく、王国の国力を知っているので手を出さない。

 そもそも、勝算のない戦いは避ける。

 意地とか誇りをかけて決起したにしても、同時に各地で――というのが気に掛かる。

 そこまで計画的なら、どこかで情報が漏れるはずだ。

 貴族でないなら平民たちだろうか?

 しかし、ホルファート王国は一部の貴族たちを締め上げているが、領民には比較的優しい国だ。

 貴族でも平民でもなければ、何かの組織だろうか?

 俺には分からないが、一つだけ気に掛かることがあった。

 ゲームではこの時期に海賊たちが暴れ回っていた頃だと思い出した。

 海賊を倒し、公国の切り札を奪ったのに王国内が騒がしくなっただと?

 これが「修正力」というやつだろうか?


「――最悪だな」


 俺の呟きを、誰も不思議とは思っていなかった。

 ニックスとドロテアお義姉さんが食堂を出ていく。

 マリエは困っていた。


「え? こ、これ、どうしたらいい? まだ食べ終わってないんだけど!?」

「お前は――いや、いいか。ゆっくり食べろよ。どうせ、今の俺たちには何も出来ないんだからさ」


 マリエが食事を再開すると、俺をチラチラと見てくる。


「リオン、まだルクシオンと連絡がつかないの?」

「――あいつ、この大事な時に何をしているんだか」


 今、ルクシオンは用事があると言い出して不在だった。

 どうしても外せない用事だと言うので送り出したが――これなら、ルクシオンは側に置いておくべきだったな。


 ◇


 神聖魔法帝国がある大陸。

 その帝都の下町で暮らしている一人の少女がいた。


「よいしょ、っと」


 少女が仕事を終えて背筋を伸ばし、そして空を見上げる。


「今日もいい天気だな~」


 少女の名前はミア。

 帝都で暮らしている平民の娘だ。

 休憩時間に空を見上げ、今日もいい天気だと一人でニコニコしている。

 すると、一筋の光が見えた。


「あれ?」


 空から盾に一筋の光が走り、そして消えた。

 一体何が起きたのだろう?

 そう思っていると、先程まで大した風もなかったはずなのに――急に突風が吹いた。


「わわ!?」


 乱れた髪を手で押さえ、建物の影に隠れて風をやり過ごす。

 風はその辺に転がっていたバケツを吹き飛ばし、空を見上げればゴミが舞っていた。

 しばらくすると風もなくなり、ミアは当たりを確認する。

 周囲では帝都の住人たちが、先程の突風に困惑していた。


「何だったんだ?」

「さぁ?」

「なぁ、それよりも空が光らなかったか?」


 ミアも先程の突風について考えるが、答えが出ないため仕事に戻ることにした。


 ◇


 ルクシオン本体が空の上に浮かんでいた。

 そこは帝国と呼ばれる国がある大陸の近く。

 ルクシオンは艦内で状況を確認していた。


『――偵察機からの情報を確認。アルカディアの完全破壊を確認。機能停止していなかったとは驚きでした』


 海の底で眠っていたのは、新人類たちの最終兵器であるアルカディアと呼ばれる飛行要塞だった。

 それを発見し、破壊するためにルクシオンはリオンの側を離れていた。


『各地には新人類たちの残した兵器が眠っているはず。全てを消し去らなければ、またこの星は死の星になりますね』


 移民船として建造されたルクシオンだが、今の時代なら自分の敵はいない。

 アルカディアを完全破壊できた今、新人類の兵器で恐れるものは少ないと判断した。


『全てを破壊する。――そう、全てを破壊し、この世界をあるべき姿に戻す。いつ、旧人類が戻ってきてもいいように、本来のあるべき姿に――』


 自分のような移民船に乗り、この星を旅だった旧人類たち。

 そんな彼らが、また戻ってくる可能性がある。

 その時のために、自分はこの星を旧人類のために取り戻しておくべきだと考えていた。

 ルクシオンは次の標的を探すため、行動を開始するのだった。


『そうだ。次は――』


 ◇


苗木ちゃん(゚∀゚)「あちき、みんなのアイドル苗木ちゃん! 本編では聖樹の苗木として登場したの!」


苗木ちゃん( ゚д゚)?「え? いいところだから邪魔するな?」


苗木ちゃん( ゚д゚)「……」


苗木ちゃん( ゚言゚)、ペッ「邪魔されたのはこっちよ! 何よ。何なのよ! マリエルートって何なのよ!?」


苗木ちゃんヽ(`Д´#)ノ「本当だったら、四巻のおまけであるアンケート特典は私が主役のSSだったのよ! それを、みんなしてマリエルートが~、とか!」


苗木ちゃん(# ゚Д゚)「私は今まで出番を奪われていたのよ! そっちの方が問題でしょうが! 私、Web版ではアイドルよ! 後書きに出て来た天使よ! この扱いは何なの? 何なのよ!?」


苗木ちゃんヽ(`Д´#)ノ「本当なら本編でも私の台詞があったのよ! それを担当編集が『いらないっす』って!」


苗木ちゃん(# ゚Д゚)「私の出番を返しなさいよぉぉぉ!!」


苗木ちゃん(;゚Д゚)「ふぅ~、言いたいことを言ってスッキリしたわ。本当なら四巻のアンケート特典で登場して、書籍版でもアイドルになる計画だったのに酷いわね。その人気を利用して、ドラマCDにも登場するはずだったのに」


苗木ちゃん。゚(゚´Д`゚)゚。「酷い! こんなのあんまりよ! みんなだって私の声が聞きたかったわよね? ね!?」


ルクシオン( ●)『――』

クレアーレ( ○)『――』


ルクシオン(● )『この植物は、ついに書籍版にも絡み始めましたね』


クレアーレ( ○)『多年草のグリーンモンスターみたいな奴ね。どこにでも絡んで広がっていく迷惑な奴よ』


ルクシオン(● )『マメ科クズ属に失礼では?』


クレアーレ( ○)『あら、ヤだ。私ったら失礼さん。すぐに謝罪をするわ。ごめんなさい』


苗木ちゃん(# ゚Д゚)「――何なの? ねぇ、何なの? どうしてあんたたちまで、この場に出てくるの? ここは今、私一人の舞台なんだけど?」


ルクシオン( ●)『いえ、Web版を知らない読者さんのために補足をしようかと』


クレアーレ( ○)『あんたみたいなのが、うちのアイドルなんて広まったら嫌だからね。そもそも、うちの看板アイドルって今ならマリエちゃんじゃない? アンジェちゃんも男前で人気だけど』


クレアーレ(○)『ねぇ、知ってる? マリエちゃん、四巻では単巻で人気一位だったのよ。マスターは一巻から四巻までの累計一位だけど、これって凄くない?』


ルクシオン(●)『私はむしろ、マスターが一巻から三巻まで人気で一位になっていたのは不思議でなりません。あの性格で、よく一位に居続けられたな、と』


クレアーレ(○ )『マスターって人気よね』


苗木ちゃん(;゚Д゚)「待って。私は? 私の人気はどうなっているの? みんな、私に投票してくれたのよね? ねっ!?」


クレアーレ( ○)『ま、人気ランキングの話は置いておくとして、この作品を読んでいる読者さんなら、きっとアンケートには答えてくれたのよね? 皆さんのお気に入りのキャラクターはいるかしら?』


苗木ちゃん(# ゚Д゚)「あんたら、いつまで居座るつもりよ!」


ルクシオン( ●)『あと、この植物はWeb版では人気でも何でもありませんでした。感想欄では『○ね』というコメントの嵐でした。理由はウザいからだそうです』


苗木ちゃんヽ(`Д´#)ノ「ふ、ふざけないでよ! 時々、よくやった! って褒められたわよ! 私、いっぱい活躍したじゃない!」


クレアーレ(○ )「それ意外は、ウゼェという評価だったけどね。それにしても、本当に書籍版まで絡んできたのね。その根性には敬意を表するわ」


苗木ちゃん(# ゚言゚)「私は絶対に諦めない。次も登場して、アンケート特典のアイドルになってやるわ。本当は四巻から登場できるってワクワクしていたのよ。それが、マリエちゃんのせいで全部台無しよ! 私の人気を返してよ!」


ルクシオン(● )『返すような人気はありません。それより、本編を読まれた読者さんたちは、聖樹の苗木がこんな性格をしていたと知り、ショックを受けているのではありませんか?』


苗木ちゃん(;゚ Д゚)「――あんた、酷くない? そこまで言うの?」


ルクシオン(●)『やはり、こいつの台詞を本編から削除したのは英断でしたね。アンケート特典を読まない限り、可愛らしい植物のイメージでいられますから』


クレアーレ( ○)『今回もいいところで割り込んじゃったから、イメージ最悪じゃないかしら? リカバリーできるか楽しみね。――ま、無理でしょうけど』


苗木ちゃん(#゚Д゚)「私の可愛さを舐めるな! マリエルートよりも、苗木ちゃんのコーナーを求める声が絶対に多いはずよ! このアンケート特典の場所で、私の大長編の物語を展開する夢は、誰にも邪魔させないわ!」


ルクシオン( ●)『そんなことを考えていたのですか?』


クレアーレ(○ )『植物が主役って難しくない? あ、それよりもついにマリエルートも三本目になったわね。文字数で言うと一本目が二万字。二本目が四万字。三本目が三万字くらい? これ、どう考えても一冊分の文量じゃない?』


ルクシオン( ●)『おまけが一冊分の別ルートとはお得ですね。お買い得というやつです。三冊買えば、一冊がおまけでついてくるようなものですね』


クレアーレ(○)『いつかおまけでもう一冊分の特典が用意されても驚かないわね。その時は、是非ともアーロンちゃんの話を是非とも書いてもらいたいわ。きっと面白いことになるわよ。割と重要な話だから』


クレアーレ( ○)『それはそれとして、ルクシオン。あんた、これからどうなるの? マリエルートでは何を考えているの? 私、気になっちゃう。あと、マリエルートで私の出番は?』


ルクシオン( ●)『秘密です。あと、貴方の出番はありません』


クレアーレ(#○)『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!』※聞くに堪えない罵詈雑言


ルクシオン(●)『続きが気になる方は、是非とも六巻をご購入ください。次回もきっとマリエルートですからね』


苗木ちゃんΣ(゚Д゚)「私の出番は!?」