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「乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です」著者書き下ろしのショート・ストーリーをプレゼントします。
お金がない。
マリエは自室で頭を抱えていた。
転生者であるマリエは、あの乙女ゲーの主人公であるリビアから全てを奪った――はずだった。
主人公の立ち位置。
攻略対象の男子たちを籠絡し、専属使用人であるエルフの美少年も手に入れた。
リビアが手に入れるはずだった全てを奪ったはずなのに――お金がなかった。
「お金がないよぉ」
絞り出した言葉は、今の自分の状況を端的に述べていた。
本来ならお金持ちである五人に囲まれ、何不自由なく暮らしているはずだったのだ。
しかし、気が付けば五人は廃嫡され、仕送りを止められている。
五人ともお金がなかった。
妄想していたお金持ちの生活は遠のくばかりである。
「こうなれば学園祭で荒稼ぎをするしかないわ」
頭を抱えているマリエが覚悟を決めると、専属使用人であるカイルが肩をすくめていた。
「学生のお祭りで稼げますかね? 大人しくダンジョンで稼げば良いじゃないですか。皆さん、それなりに稼げますし」
「稼いでもみんなすぐに使っちゃうのよ!」
金銭感覚に問題を抱えている五人。
元は大貴族の跡取りでお金持ちだ。
いきなり庶民的な生活に変えろと言われても難しい。
だが、五人が優秀なのは事実だった。
ダンジョンに入って宝探しをすれば、ある程度の金額は稼げる。
ただし、それをすぐに使ってしまうのが問題だった。
「ご主人様は残って、他の五人に稼がせておけばいいじゃないですか」
(こいつ、何気に自分はダンジョンに入りたくない、って言ってない?)
「駄目よ。あの五人は見張っていないと稼いだお金を一日で使うわ。ここは、学園祭で大きく稼ぐのよ。金持ちが多いからね。学生でもきっと大金を持っているわ」
「それで、出し物は何を?」
「それはこれから考えるわ。まずは情報収集ね」
女子をターゲットにした方が稼げると思ったマリエは、すぐにリサーチを開始するのだった。
◇
学園の外に出たマリエは、学園女子の行動を観察していた。
カイルと二人で物陰に隠れながら、買い物をしている女子たちを見ている。
「――何これ羨ましい」
そして、目の前に広がる光景に理想を見た。
高身長の美形である亜人種たちが、スーツを着こなし女子の買い物に付き合っている。
学園男子も近くにいて、女子の荷物持ちを率先して行っていた。
カイルが嫌そうな顔をしていた。
「服一つを選ぶのにどれだけ時間をかけるんでしょうね。荷物持ちをしている男子が震えていますよ」
重い荷物を持って立っている男子たちの腕は限界だった。
しかし、落とそうものなら買い直し、ついでに今後は買い物にも誘われない。
婚活のために必死に耐えている。
ついでに、買い物の代金は全て男子が支払っていた。
「私もあんな休日を過ごしたいわ」
マリエの理想とする光景だった。
続いて一団は喫茶店に入っていく。
男子たちは重い荷物を下ろし、休憩時間となり腕を揉んでいた。
女子の方は――。
「見てくださいよ。凄く高いセットを注文しましたよ」
お茶もお菓子も全て高級品。
支払いは全て男子持ち。
軽食を食べている女子もいる。
少ない量ながら、値段が高いそれらを女子たちは遠慮せずに注文していた。
(羨ましいわね。私なんか、三食学食で済ませているのに)
休日は買い物に外食。
何とも羨ましい光景だった。
そして、その後も買い物――夕食と続き、夜になると男子たちが解放されていた。
せっかくの休日を荷物持ちで潰した男子たちに、少しだけ同情するマリエだったが――。
「あれ? 女子たちはどこに向かうのかしら?」
様子がおかしい。
男子たちを帰らせると、女子たちは専属使用人たちを連れて夜の街に繰り出していた。
門限が迫る中、マリエは少し考えてからついていくのだった。
「ご主人様、本当についていくんですか?」
「仕方がないわ。女子が何にお金を使っているか調べないと駄目なのよ」
リサーチのために女子の集団についていくと、怪しげな店に入っていく。
マリエも中に入ると――。
「いらっしゃいませ、お嬢様」
――美形の執事がお出迎えしてくれる店だった。
「おふっ!」
口元を押さえるマリエ。
店内はどこを見ても美形の男たち。
店員たちが執事の服を着て、女性にサービスする店らしい。
見渡せば、学園の女子たちが店内に大勢いた。
執事を隣に座らせ、食事を食べさせてもらっている。
店員が、
「毎日通っているけど大丈夫? ここ、結構高いよ」
心配そうに尋ねれば、女子はこう返した。
「平気よ。お金なんて男子に支払わせるわ。お金がないって言えば、喜んで貢いでくれるもの。それより、私の愛人になってよ」
「え~、それって男子たちが可哀想じゃない? でも、それなら安心して飲み食いできるね」
それってどうなの、と男子たちに同情しながらも――マリエは思った。
(これだぁぁぁ!)
マリエの中で、スーツに身を包んだユリウスたちの姿が思い浮かんだ。
学園で人気のある名門貴族の元跡取りたち。
彼らがサービスをすれば、きっと女子たちが金を貢いでくれるはずだ、と。
「カイル、閃いたわ」
マリエが何を考えているのか察したカイルは、とても嫌そうな顔をしている。
「もしかして、これを学園祭の出し物にするんですか? 許可なんて出るんですか?」
「表向きは喫茶店にするわ。あの五人とあんたがサービスをするオプション付きでね。これはきっと儲かるわよ」
こうして、マリエの学園祭での出し物が決まったのだった。
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