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『マリエ頑張る』


 お金がない。

 マリエは自室で頭を抱えていた。

 転生者であるマリエは、あの乙女ゲーの主人公であるリビアから全てを奪った――はずだった。

 主人公の立ち位置。

 攻略対象の男子たちを籠絡ろうらくし、専属使用人であるエルフの美少年も手に入れた。

 リビアが手に入れるはずだった全てを奪ったはずなのに――お金がなかった。

「お金がないよぉ」

 絞り出した言葉は、今の自分の状況を端的に述べていた。

 本来ならお金持ちである五人に囲まれ、何不自由なく暮らしているはずだったのだ。

 しかし、気が付けば五人は廃嫡され、仕送りを止められている。

 五人ともお金がなかった。

 妄想していたお金持ちの生活は遠のくばかりである。

「こうなれば学園祭で荒稼ぎをするしかないわ」

 頭を抱えているマリエが覚悟を決めると、専属使用人であるカイルが肩をすくめていた。

「学生のお祭りで稼げますかね? 大人しくダンジョンで稼げば良いじゃないですか。皆さん、それなりに稼げますし」

「稼いでもみんなすぐに使っちゃうのよ!」

 金銭感覚に問題を抱えている五人。

 元は大貴族の跡取りでお金持ちだ。

 いきなり庶民的な生活に変えろと言われても難しい。

 だが、五人が優秀なのは事実だった。

 ダンジョンに入って宝探しをすれば、ある程度の金額は稼げる。

 ただし、それをすぐに使ってしまうのが問題だった。

「ご主人様は残って、他の五人に稼がせておけばいいじゃないですか」

(こいつ、何気に自分はダンジョンに入りたくない、って言ってない?)

「駄目よ。あの五人は見張っていないと稼いだお金を一日で使うわ。ここは、学園祭で大きく稼ぐのよ。金持ちが多いからね。学生でもきっと大金を持っているわ」

「それで、出し物は何を?」

「それはこれから考えるわ。まずは情報収集ね」

 女子をターゲットにした方が稼げると思ったマリエは、すぐにリサーチを開始するのだった。



 学園の外に出たマリエは、学園女子の行動を観察していた。

 カイルと二人で物陰に隠れながら、買い物をしている女子たちを見ている。

「――何これ羨ましい」

 そして、目の前に広がる光景に理想を見た。

 高身長の美形である亜人種たちが、スーツを着こなし女子の買い物に付き合っている。

 学園男子も近くにいて、女子の荷物持ちを率先して行っていた。

 カイルが嫌そうな顔をしていた。

「服一つを選ぶのにどれだけ時間をかけるんでしょうね。荷物持ちをしている男子が震えていますよ」

 重い荷物を持って立っている男子たちの腕は限界だった。

 しかし、落とそうものなら買い直し、ついでに今後は買い物にも誘われない。

 婚活のために必死に耐えている。

 ついでに、買い物の代金は全て男子が支払っていた。

「私もあんな休日を過ごしたいわ」

 マリエの理想とする光景だった。

 続いて一団は喫茶店に入っていく。

 男子たちは重い荷物を下ろし、休憩時間となり腕を揉んでいた。

 女子の方は――。

「見てくださいよ。凄く高いセットを注文しましたよ」

 お茶もお菓子も全て高級品。

 支払いは全て男子持ち。

 軽食を食べている女子もいる。

 少ない量ながら、値段が高いそれらを女子たちは遠慮せずに注文していた。

(羨ましいわね。私なんか、三食学食で済ませているのに)

 休日は買い物に外食。

 何とも羨ましい光景だった。

 そして、その後も買い物――夕食と続き、夜になると男子たちが解放されていた。

 せっかくの休日を荷物持ちで潰した男子たちに、少しだけ同情するマリエだったが――。

「あれ? 女子たちはどこに向かうのかしら?」

 様子がおかしい。

 男子たちを帰らせると、女子たちは専属使用人たちを連れて夜の街に繰り出していた。

 門限が迫る中、マリエは少し考えてからついていくのだった。

「ご主人様、本当についていくんですか?」

「仕方がないわ。女子が何にお金を使っているか調べないと駄目なのよ」

 リサーチのために女子の集団についていくと、怪しげな店に入っていく。

 マリエも中に入ると――。

「いらっしゃいませ、お嬢様」

 ――美形の執事がお出迎えしてくれる店だった。

「おふっ!」

 口元を押さえるマリエ。

 店内はどこを見ても美形の男たち。

 店員たちが執事の服を着て、女性にサービスする店らしい。

 見渡せば、学園の女子たちが店内に大勢いた。

 執事を隣に座らせ、食事を食べさせてもらっている。

 店員が、

「毎日通っているけど大丈夫? ここ、結構高いよ」

 心配そうに尋ねれば、女子はこう返した。

「平気よ。お金なんて男子に支払わせるわ。お金がないって言えば、喜んで貢いでくれるもの。それより、私の愛人になってよ」

「え~、それって男子たちが可哀想じゃない? でも、それなら安心して飲み食いできるね」

 それってどうなの、と男子たちに同情しながらも――マリエは思った。

(これだぁぁぁ!)

 マリエの中で、スーツに身を包んだユリウスたちの姿が思い浮かんだ。

 学園で人気のある名門貴族の元跡取りたち。

 彼らがサービスをすれば、きっと女子たちが金を貢いでくれるはずだ、と。

「カイル、閃いたわ」

 マリエが何を考えているのか察したカイルは、とても嫌そうな顔をしている。

「もしかして、これを学園祭の出し物にするんですか? 許可なんて出るんですか?」

「表向きは喫茶店にするわ。あの五人とあんたがサービスをするオプション付きでね。これはきっと儲かるわよ」

 こうして、マリエの学園祭での出し物が決まったのだった。



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