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『アンジェリカの学園生活』


 貴族の通う学園は不思議な場所だった。

 若い同年代の貴族たちが顔を合わせ、互いに切磋琢磨せっさたくまする――そんな建前がある学園だが、多くの生徒にとって重要なのは婚活だ。

 社交界の場でもある。

 そんな学園で、上から数えた方が早い地位にいるのがアンジェリカだった。

 周囲には常に取り巻きと呼ばれる生徒たちがいる。

 彼、彼女たちは、アンジェリカの実家であるレッドグレイブ家と関わりのある家の者たちだ。

 校舎内を歩いていると、彼らが付き従うため十人以上の集団で移動となる。

 アンジェリカが廊下の反対側から来る集団に気付いた。

「――あれは」

 自分と同じように取り巻きを大勢連れている女子は、伯爵家の令嬢だった。

 格、実力、関係――それらをすぐに判断する。

 耳打ちしてくる取り巻きの女子がいた。

「アンジェリカ様、あの方は――」

「問題ない」

 アンジェリカは、相手が上級生でありながら道を譲らずそのまま歩く。

 相手は不快感を示すが、アンジェリカだと分かると全員が道を譲った。

 道を譲った伯爵家の娘と取り巻きたちは、苦々しい顔をしている。

 上級生だからと、アンジェリカが道を譲ることもない。

 学年よりも立場が優先される。学園とはそんな場所だった。

 調子のいい男子が、アンジェリカを褒めちぎる。

「流石はアンジェリカ様ですね! 伯爵家の連中の顔を見ましたか? どいつもこいつもアンジェリカ様のご威光を前に道を譲りましたよ!」

 アンジェリカは溜息を吐きたい気分だった。

 (実家の力関係で道を譲っただけだろうに。こいつ、相手が敵対派閥の家だと分かっているのか?)

 取り巻き全員が優秀ではない。

 ただ、家同士の関係もあり、付き合いを遠慮することが出来ない生徒もいる。

 校舎を出たアンジェリカたちは、学園の校門前にやってきた屋台を見た。放課後になると、屋台が学園前に来て学生たちを相手に商売する。

 足を止めたアンジェリカは、屋台を見て――。

「……屋台か。たまには悪くないな」

 学生たちが買い食いをしている光景に興味を持ち、何か自分も買って食べてみるかと思ったところで、

「いけません!」

「そうですよ。アレはアンジェリカ様がお口にする食べ物ではありません」

「さぁ、屋台など無視していきましょう」

 急かす女子たちの意見に、男子たちは何も言わない。女子に逆らうのが怖いのだ。

 アンジェリカも買い食いを諦める。

 (ここで揉めても時間の無駄か)

 取り巻きたちの意見に従う形で、馬車が並んだ場所を目指した。

 用意された馬車に乗り、向かう先は王都にある公爵家の屋敷だ。

 取り巻きたちはここで解散である。

 馬車に乗ったアンジェリカに取り巻きたちは、

「それではお嬢様、いってらっしゃいませ」

「……あぁ」

 馬車が動き出すと、取り巻きたちはしばらく整列していたがすぐに気を抜いて背伸びなどをしていた。

 その様子を馬車に付いた鏡で見たアンジェリカも少しだけ気を抜く。

「学園でも気を抜く暇がないな」

 公爵家の屋敷で待っているのは家庭教師。学園が終わっても、アンジェリカは休めない。

 王太子殿下の婚約者。

 その立場もあるアンジェリカは、学園での授業だけ受けていればいい立場ではなかった。

「五月はお茶会もある。仕上がったドレスも試着して、殿下との打ち合わせもしなくてはいけないな」

 立場もあって気苦労も多いアンジェリカは、馬車の中で少しだけ目を閉じた。

 この努力も、ユリウスの事を想えば我慢できる。

 そうやって幼い頃から頑張ってきたのだ。

 だが、そんなアンジェリカにも不安があった。

 ユリウスが気にかけている女子生徒がいるという噂だ。相手も調べたが、子爵家の娘だった。とてもユリウスとは釣り合わない。

 そう思っていると、馬車が影に隠れた。

 窓の外を見れば、王都の空を飛行船が飛び交っている。

「……いつか殿下と飛行船で旅にでも出てみたいものだな」

 それがアンジェリカの今の願いだった。



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